街角を歩く
平成25年(2013年)2月16日石川医報(第三種郵便物認可)第1533号
松任駅から金沢駅までJR を利用すると10分である。帰宅途中の高校生と10分間の付き合いだ。談笑する声、携帯に没頭する様子、疲れ切った寝姿、それぞれが青春。戻りたいとは思わないが、迷いと悩みがふとよみがえる。車を使った時は優に30分はかかる。通勤で混雑する時間帯だと40分だ。車で行ってアルコールが入った場合は代行運転という事になるが、この代金が随分安くなった。タクシーで行く片道代が代行運転の料金となる。以前は、1.5倍していた。金沢駅近くのホテルで会合がある時はもっぱらJRで行く。講演会後の懇親会、そして片町へ出てしまえばJRともおさらばだ。ネオンに向かう元気が無ければそのままJRという事になる。
金沢駅から松任駅への帰りの10分間は気が抜けない。西金沢、野々市、松任へと三駅だが酩酊しながら駅名を確認する。以前、いつの間にか松任を過ぎ、次の加賀笠間で目が覚めたことがある。知らない駅舎で寒風の30分待ちは堪えたが、たまたま飾られていた瓢箪の鉢植えが目の保養になった。

松任駅も新幹線予算できれいになったが、それよりずっと前からの話だ。駅から我が家までタクシーで3分。急がない時はタクシーを尻目に松任駅裏からまっすぐ伸びる最短の通勤路を歩く。ゆっくり歩いて20分。車も多い道のため道の端を気遣いながら歩く。午後9時を過ぎれば車は少ないが、やや飲み過ぎたときは要注意だ。
いつの間にか道の真ん中を歩いている。ヒヤッとして道の端へ。端を歩いているはずがまた真ん中へ。本当に酔っぱらいはしょうがねー。道の端にも危険が潜む。寒い雨模様の夜・・・道の端を歩いていたが、端に寄りすぎて溝に蓋の無いことに気づかず、雑草に覆われた黒いドブに落ちた。大腿から下はずぶ濡れ。家に着いたが幸いに家人は寝ていた。風呂場でそっと夜間の洗い物。翌朝何食わぬ顔で朝食を食ったが、更に昔自転車通勤をしていたやや知り合いの真面目に薬を飲む中年女性が夜間帰宅途中に自転車ごと溝に落ち亡くなったことを思い出した。無念であったろう。すべての溝は蓋で覆うべきである。

歩いても走っても自転車でも危険は付きものだ。その後松任駅から自宅への道を変更した。駅裏からJRの車両基地の右側に沿って住宅街を歩く道だ。遠回りになるが人も車も溝も少ない。ゆっくり歩いて30分。車両基地の横には枯れかかった桜並木もあるので春には桜見物が会合の憂さを締めくくってくれる。冬は吹雪の中の行軍だ。
酔いは冷めるが30分だから我慢できる。最近は専らその道が帰り道である。途中にクスリのアオキもある。開いている時は、物が溢れている店内をついでに散歩する。時には衝動買い。酔いが財布の口を大きくする。タクシーの方が安い。

ある時天使が囁いた:「30分ぐらい歩いたって変わらないよ」私:「いや、維持しているさ」会合のある日は、犬の散歩に付き合えないので帰り道が唯一の運動だ。体重も腹囲も横這いであるが、たらふく食った夜ひたすら帰り道「歩く30分」にこだわる。
院長のひとりごと