子育て大変ですね。でも子どもは日本の未来です。
2017年1月18日
僕、生まれたよ 〜赤ちゃんから見た世界〜

 僕、ついさっき生まれたよ。ママのお腹の中で、もう少しのんびりしていようと思っていたのに、お水の中でぷかぷか浮いていた頭もママのお尻の方に挟まれた。身体は逆さまになり、頭の先の天井がだんだん開いて、狭い道をくぐり抜けやっとの事で明るい世界に出てきたよ。思わず大きな声で啼いてしまった。でもそれで良かった。たまに啼かないで、空気を吸うのが遅くなる赤ちゃんもいるらしい。そこで吸えるか吸えないかが、人生の分かれ道・・・大げさじゃないよ。本当の事だよ。頭で普通に考えて、手や足を自由に使えるのはその時直ぐに啼けたお陰なんだ。生まれた途端に肺が開いて空気を吸い込むタイミングが遅れ、酸素が頭に行かない状態が続けば、脳性マヒという病気になってしまう。手や足が動かなかったり、脳の発達が遅れて知恵遅れになってしまう。本当に数分間の出来事が人生を変えてしまう。僕は、幸いにも普通に肺が開いて、空気を吸えた。お腹の中には39週と5日入っていたよ。普通は40週だけど、都合でそれを過ぎても出てこない子がいる。でもその気持ちは分かるよ。ママのお腹で、羊水の海にぷかぷかは最高の気分だから。生まれた時の体重は3250g。2500g以下だと未熟児。36週以前で生まれるとRSウィルスに弱いので、月1回、抵抗力の注射をされるよ。いろいろな事があるけど、無事に生まれるのは、すごいと思う。ありがとう。お父さんお母さんのお陰です。

 話は変わるけど、日本には年齢の数え方で「かぞえで何歳」というのがあります。現在は「満何歳」が普通ですが、この違いは何かご存じですか・・・実は、日本では妊娠してお腹に出来たときから数えて何歳なんです。受精卵から生まれるまでの10ヶ月を1歳としたんです。よく考えたら当たり前かもしれないけど、お腹にいる約1年間も「もう人間なんだよ」と考えていたんです。僕は、素晴らしいと思います。


何から何まで心配だわ 〜ママの気持ちはどんなかな〜

 生まれてその翌日に、小児科ドクターの診察があったけど、ママがこんな事を言っていた。ドクター:「お母さん、何か心配なことはありませんか」

ママ:「初めてだし、何を心配したら良いのか分からないわ。でも先生、五体満足ですか」
「五体満足」の五体とは、身体を構成する5つの部分、すなわち頭・両手・両足、あるいは頭・頸・胸・手・足のこと。つまり人間の全身ということだ。その五体に欠けた所は無いか心配する言葉だった。まれには、頭が少し大きかったり、指が多かったり、心臓に雑音があったり、皮膚に大きなアザがあったり、心配事は突然やってくる。

 気のつくお母さんは、「この子のチンチン小さくないですか?」ドクターは、ベビーのチンチンを、神妙に引っ張り上げながら物差しを当てた。「ほら、よく見てね。引っ張ると根本から2センチ以上あるでしょう。正常です。」ドクターは、得意げに答えた。入院中に黄疸が強いと、光をかけて治療します。強い黄疸は、脳みそが黄色く染まって、やはり脳の働きが傷害されてしまうのです(核黄疸)。

 さらに、入院中に血液を採って、新生児マス・スクリーニングを行います。早期に診断して早期に対応すれば、先天性疾患の子どもを後遺症や死亡から守ることが可能です。有名な病気は、フェニールケトン尿症です。発見が遅れると知能障害が残ってしまう病気ですが、新生児期に発見して治療すれば、知能障害を防ぐことが出来ます。

 生まれてから数日間、いろいろな門をくぐって人間の仲間入りです。いや、お腹の中から人間だった。生まれて直ぐに心臓に異常が見つかり、緊急手術の為に、石川から富山、大阪へと転送されて、無事元気に帰還した赤ちゃんもいます。医療の連携で、昔なら落としていた命が救われる時代になりました。

 最近は、核家族が普通です。赤ちゃんを抱くのが、自分の子を出産して初めてというママも多いです。情報はあふれていますが何を信じて良いか分からない。もう学校で「子育ての授業」があっても良い時代です。小学校から少しずつ、実践を交えながら赤ちゃんの育て方を中心に、性教育も含めて勉強する。子どもは、親にとって楽しみでもあり、苦しみでもある事を学びたいです・・・小学校1年火曜日2時間目「赤ちゃんが、泣いたらどうしたらいいの?」・・・子育て授業だけを好きになる子がいるかもしれませんが、将来は愛情深いママになること請け合いです。


母乳育児が理想です

 犬や猫が、子どもを育てている様子を見たことがあるでしょうか。母親のお乳にかじりついて一生懸命飲んでいます。一足遅れた兄弟が、空いた乳首は無いか懸命に探し回っています。犬や猫は乳首が沢山あるから、全員の分が確保されるでしょう。

 生後3ヶ月の赤ちゃんが「1週間、便が出ない」と心配顔のママにつれられて、受診されました。カーテンの陰には、おばあちゃんの気配も感じました。赤ちゃんに話しかけながらお腹をさわります。便が貯まっている様子はありません。体重の増加も順調です。ドクターは、笑顔を含みながら答えました。「母乳は消化が良いから、カスが少ない。カスが少なければ便も貯まりません」一時怪訝な顔をしていたママが、笑顔に変わりました。その意味を理解したようです。そうです。母乳は、人間専用のミルクだから消化が良い。だからカスが少ない。よって、便が貯まるまで時間がかかる。でも、時にヒルシュスプルング病という腸の病気があるので、肛門に指をいれてみます。便とガスが噴出するようならこの病気が疑われます。その時は直ぐ小児外科へ紹介です。でも「異常なし」で無事小児外科から戻ることもあります。何と私は藪なのでしょう。いや開業医は藪が丁度良いのです。時に出くわす重症例。それを見逃さない為には自信がない方が手遅れにならないという理論です。


僕、歩いているよ 〜爺の子守はたいへん〜

 僕の1歳の誕生日は3日前に終わりました。もう少しで一人歩きです。親は歩くのを待っていたようだけど、歩き出したら大変みたい。その歩き方が早い。爺の子守では追いつかない。「あー、危ない」と声をかける間もなく転んでいる。1歳児の死因の第一位が「事故」なんて聞いたら余計心配になった。これまでのように預(あず)かれない。先日も「たかい、たかい」をしていたらママの一言が飛んできた。「おじちゃん、頭の血管が切れるから止めて」と来たもんだ。一応知っているから、そろそろっとやっていたのに。

 1歳児が「まだ歩けません」と言って受診しました。「お尻でずり這いしないですか」と聞いてみると、即座に「その通りです」というママの答えが返ってきました。「シャッフリングベビー」と呼ばれる赤ちゃんです。普通は1歳4ヶ月くらいまでに歩ければ問題ないのですが、このベビーは歩行が遅れ、2歳頃になるときもあります。知恵遅れが伴うこともなく、運動も普通です。

 爺として孫に接する機会が多くなりました。私が生後2ヶ月からワクチン接種をしていますが、診察室の爺と居間にいる爺をどう判別するのか、興味がありました。最初の孫は3歳になって、初めていやがらずに抱っこに応えてくれました。これは女の子です。二人目の孫は男の子ですが、1歳でした。我が子では出来なかった子どもの真実を、反省を込めながら孫で学ばせてもらっています。

 大分県にある高崎山自然動物園では猿の集団生活を見学出来ます。母親から離れて遊んでいた小猿が、危険を感じて一目散にママのお腹に潜り込み、下から手を回してかじりついているのを目撃しました。安全な港という印象です。ふと思いました。猿の社会でも虐待やひきこもりはあるのかな。親子の絆が太いから大丈夫かな。  子どもに対する愛情は、生まれながらに母親に充分備わっているものではありません。子育ての切磋琢磨の中から生まれてくるのではないでしょうか。それと共に親子の絆も、次第に太く育つのです。その為には、乳幼児期の充分なスキンシップと心の交流が不可欠と思われます。また、未来を担う子ども達を愛情深く育てる事は、人間社会における重要な仕事であるという認識も必要です。エレベーターで子ども連れの親子に出会ったら「可愛いね。いくつ」と声をかけてあげてください。そこで笑っているパパ、たまにはママにねぎらいの言葉をかけてね。「子育て大変だね。いつも有り難う。」

 もしかして、もしかして・・・子育てって、男の仕事よりも大事な仕事かも。
院長のひとりごと