ポリオワクチンはどうなるの?

 梅雨だというのに暑い日が続いています。小児科外来は、お腹につく風邪や高い熱を数日伴う風邪、また夏風邪に分類されるプール熱や手足口病も多くなってきました。
 ところで、5月中旬に新聞紙上を賑わせたポリオワクチン騒動はどうなったのでしょうか。厚生省は秋から再開の予定としていますが大丈夫なのでしょうか。
 今月のマンスリーニュースは、世界でのポリオの流行やポリオワクチンの現状と今後の展望など、私も一緒に勉強させてください。

  ポリオとはどんな病気?

 ポリオは人類の歴史と共に存在し、昔から散発的に発生はしていましたが、ペストやコレラのように大流行を繰り返していたわけではありません。大きな流行は20世紀に入ってからで、1905年スウェーデンで1000人以上の麻痺患者が発生し、1916年には米国で27000人以上の麻痺者が出て、約6000人が死亡したとの報告があります。
 ポリオに感染した人の90%は無症状に終わる不顕性感染ですが、残り10%のうち4〜8%は軽い風邪症状や風邪に加えて髄膜炎症状を伴うと言われます。強毒ポリオウィルスが中枢神経に達すると、ポリオウィルスの大好きな脊髄につき、運動神経が冒され手足の麻痺が残ることになります。さらに、脳神経核や延髄の呼吸中枢に入り込むと呼吸が出来なくなり死に至ります。

  ポリオの現状

1989年5月、世界保健機構(WHO)は、西暦2000年までにポリオを失くし、20世紀から21世紀への最大の贈り物とする目標を立てました。実際、気候の温暖な地域や先進国では順調に患者数は減っていましたが、熱帯や亜熱帯の地域ではあまり効果が認められませんでした。これは、ワクチンが熱に不安定であることも原因と言われます。また、アフリカでは内戦による政情不安、ヨーロッパでは旧ソ連崩壊によるワクチン供給の停滞などが問題になっています。  
 南北アメリカでは久しく、日本の属する西太平洋地域でも1997年3月のカンボジアの1例を最後に、野生のポリオウィルスによる発症はゼロですが、インド、バングラデシュなど南アジアやアフリカ地域では1998年に6000例の患者さんが報告されています。

  生ワクチンと不活化ワクチン

 日本では経口生ワクチンを生後3ヶ月から1歳半の間に、6週間以上の間隔をあけて2回飲む方法がとられています。しかし、この方法では抗体の上昇は不完全で低下し易く、流行地域へ旅行する場合には追加が必要といわれます。
 日本の現状としては、野生のポリオウィルスが根絶された現在、ポリオ生ワクチンのウィルスが体内で強くなってその人に麻痺を起こしたり、排泄されたウィルスが回りのワクチンを打ってない人や免疫の少ない人に感染して病気を引き起こすことが問題になっています。数としては少ないのですが、ワクチンのウィルスで起こるというのは大問題です。そこで、その面では安全な不活化ポリオワクチンの採用が検討されています。
 不活化ワクチンの問題点として経口生ワクチンと違い腸の中に抗体を作れず腸でウィルスが繁殖してしまう可能性が言われてきました。しかし、オランダやフィンランドではこの不活化ワクチンのみを1957年より使用して、長期に渡ってポリオウィルスの排除に成功しているのです。
 米国では、どちらが良いのかを論争後、1998年より不活化4回、不活化2回+生2回、生4回のうち好きなのを選ぶようにしたそうですが、不活化4回を選ぶ親が多いといいます。

  強化不活化ポリオワクチン

 さて切り札の登場です。いかにも強そうな名前です。1984年、オランダで最新技術を駆使して強化不活化ポリオワクチンの調整に成功しました。このワクチンを3回打つと生3回以上の効果が期待できるそうです。かつ、腸の中にも抗体を作れるという報告があります。
 ポリオは罹った人に30〜40年も経ってから、筋痛やけいれん、脱力などの進行性運動機能障害を起こすことが知られています。現在世界には30〜60万人のポリオ麻痺を持った人がいますが、その4人に1人が次の苦痛の危険にさらされているのです。ポリオは怖いよ!
(新・予防接種のすべて・堺春美編著を大いに参考にさせて頂きました。)

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