「千と千尋の神隠し」   見ましたか

 1年前の8月号マンスリーニュースも地球温暖化のせいか、猛暑が続いているという前置きで始まっていました。今年も日本各地で35〜40℃近い猛暑が記録されています。このまま毎年猛暑が続いて、地球が溶け出さないことを祈りたいです。
 さて、小泉人気の参院選も一段落しましたが、日本の景気は相変わらず良くなりません。新しい政府に期待がかけられていますが、政治は制度を変える事は出来ても、人間の心が豊かさや幸福感を実感出来る世の中は改革の中から生まれてくるのでしょうか。あるいはそんな生活がかつてあったのかも、そして更に遠ざかっているのかもしれません。
 さて、今月のマンスリーニュースは、「千と千尋の神隠し」を見た後感じた「懐かしい気持ち」を書いてみます。

  ゴジラの顔

 子どもの頃、「ゴジラ」という怪獣映画がありました。親父に連れられて、二人で見に行った覚えがあります。家に帰ってからもゴジラの怖い顔が忘れられません。私の家は横須賀の山の中腹(決して山手ではありません)に建っていたのですが、便所に行くときに山のテッペン(頂上)が見渡せます。映画のワンシーンでゴジラが山から顔を出すシーンがあり、突然ダブってしまいました。それ以来夜は障子も全開、電灯もこうこうと付け、便所の扉も開けて用を足す羽目になりました。家族からは「恐がり」と馬鹿にされましたが、映画と現実が区別できない年頃だったのでしょう。
 ところで、今の子ども達はどうなんでしょうか。「ゴジラなんかいるはずない。」という多くの情報の中で現実の世界が最優先されてしまうでしょうからそんな悩みはないのでしょうね。ちょっと寂しい気がします。「千と千尋の神隠し」は、そんな子どもの現実と非現実の交錯する世界の楽しさを描いていると思いました。誰でも子どもの頃は、夢のような事を考えています。それを壊すのは親かもしれません。人間の幸せ感とも無縁でないように思います。

  千と千尋

 千尋というどこにでもいそうな10歳の女の子が、この映画の主人公です。引っ越した新しい家に向かう途中で、日本中の神様が身体を休めに来るという変な温泉宿へ紛れ込んでしまいます。現実ではないファンタジーの世界で、千という名前を付けられ、豚に変身させられた父母を救うために一生懸命力を尽くすというお話です。 初めは紛れ込んだ人間ということで馬鹿にされていましたが、次々に起こる難問に誠心誠意ぶつかっていく姿が温泉宿の職員にも認められ、千に味方する仲間も増えます。最後には怖い婆婆の難問にも答えて父母と共に人間世界に帰れることになります。その難問がどの豚が千尋の父母かというものでした。千尋は、この豚の中には父母はいないと即座に答えますが、どうしてわかったのでしょう。分かる方教えてください・・・(親子だもん、当たり前でしょう)

  ファンタジーの世界

 宮崎駿の映画はどれをとっても、見た後に「さわやかな感じを」を残してくれるものが多いので大好きです。中でも「トトロ」は、今回同様「懐かしい気持ち」を起こさせてくれた作品ですし、「天空の城」や「もののけ姫」は物語としても楽しいですが、人間と地球の奥深い関係を文章で語れない表現で感じさせてくれるファンタジーだと思います。 
 宮崎氏の言葉に、
「ファンタジーの力っていうことですけれども、これはもう、実際自分の体験がそうだったわけで、不安に満ちてた、自信のない、自己表現の下手な自分が何か自由になれたっていうのは、現実を直視したら自信をなくして折れてしまう人間が、とりあえずそこで自分が主人公になれる空間をもつっていうことがね、ファンタジーの力だと思う。」

 ファンタジーは幸せのもと?

 子どもから大人へ・・・人間は年と共に成長し、多くの経験を積んで大成していきます。世間での成功者は、人間として確固としたものを持ち、経済的にも恵まれて初めて認められた事になるのが一般的です。その人がその生活に幸せを感じているかはあまり問題になりません。幸せな人生、幸せな一生・・・日本では年間の自殺者が三万人を越えました。生活は豊かになったようですが、年ごとに増える自殺者は何を意味しているのでしょうか。そうです。幸せではないのです。幸せかどうかはその人の考え方一つ、ということでしょうがその考え方に影響を与えるのはその時代の価値観だと思います。
 子どもの世界は、非現実的です。非現実から現実への課程が人間としての成長の過程とも言えるでしょう。仕事に疲れたとき、子どもの頃の非現実かとも思える思い出は、その疲れを癒してくれることもあります。
 現代の子ども達には夢が無いといいます。現実の厳しい世界ばかり見させられているのですから当然です。子ども達にもっとファンタジーの世界を与えてあげたいものです。千が千尋に戻るとき、顔が違っていました。ファンタジーの世界で主人公になり大活躍した思い出は現実世界でも生きる支えになるに違いありません。
   
もっと夢を・・・子ども達に


 

   
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