目には目を?

 今年も残すところ後わずかになりました。年を取る毎に、1年間が短く感じられる今日この頃ですが、貴方のご家庭の1年間は如何でしたか。
 外来で診察していると、生活と子育てに連日一生懸命のお父さん、お母さんの苦しそうな息吹が感じられます。特に、景気回復の見えない時期ですからなおさらかもしれません。リストラや就職難の影響が、子育ての楽しさや生活の余裕を次第に奪っていくという現実を目の当たりにすることもあります。
 でも子どもは生き甲斐ですし、未来です。そして日々成長しています。お父さん、お母さんの一生懸命さは必ず子どもに伝わっています。泣き叫んでいた子どももいつの日か、頼りになる若者に成長します。苦しい時期は、なかなか子育てにも余裕がありませんが、焦らないでその成長を見つめてあげてください。親のまじめな生活態度は、子どもを素晴らしい大人に成長させる源であることは今も昔も変わりません。
 さて、マンスリーニュースですが「目には目を?」という表題を付けました。最近よく話題になる「家庭内暴力」について考えましょう。

  目には目を

 「目には目を、歯には歯を」という言葉をご存じですか。遠い昔に歴史で習ったハムラビ法典や旧約聖書にも出てくる言葉です。キリストが、有名な「山上の説教」で「害を与えられたら、それに相応する報復をすることのたとえ」として使われています。今で言えば「やられたらやり返せ」ということでしょう。現在の世界情勢を反映するような言葉です。これから世界はどうなっていくのでしょう。本当に心配です。
 さて、外来に置いてある「なんでもノート」には、お母さんの正直な気持ちを書いていただいてありがとうございます。時には、医院へのおしかりの言葉もありますが、大変うれしいです。
 最近、書かれた二人のお母さんの言葉は、お父さんの暴力について触れられていました。力の強い人が弱い人に暴力を振るう・・・いろいろ事情はあるでしょうが、それも正常範囲を超えれば問題です。「目には目を」と言われてもお返しできない時もあります。お返しして、「お互い様だね。」と笑いながら理解が深まれば、それはそれで「暴力の効用」となるでしょう。でも、そんなテレビドラマみたいなことってあるのかなー。幼児虐待にしても、夫婦間の暴力にしてもギリギリの心理状態から生まれるのではないでしょうか。振るう方にしても、振るわれる方にしても「止めなさい。」と言われて、そう簡単に引き下がれない状態にあるようなら、外部からの救済も必要です。
  
二人のお母さん!
   まだ大丈夫ですか。

  綾戸智絵さんの場合

 突然、綾戸智絵さんのお名前が出てきました。知っておられる方も多いと思いますが、私の好きなジャズ・スィンガーのおばちゃんです。先日テレビで福留さんが司会している「波瀾万丈」の綾戸智絵編を見ました。随分苦労しながら現在の成功を収めた様子が分かり、更に彼女のジャズが好きになりました。その「たくましさ」は本当に大した者(?)です。
 彼女はアメリカで自分の決めた人と結婚しているのですが、その男性も暴力を振るったそうです。これはもうダメだと思った時(直感で、もうこの人とはよりが戻せないなーと思ったそうです)、その朝、何食わぬ顔でご主人にお弁当を持たせて仕事に出かけた後、日本への逃避行を決行しました。子どもが生まれてまだ幼い頃だったようです。この子が生まれたら決行しようと決めていたそうですからすごいです。子どもの為にもそれが良いと判断したようです。
 「ダメだ、ダメだ。」と思いながらもなかなかその状況から抜け出せないというのが普通かもしれませんが、人間やったら出来るものです。この時、判断の決め手になるのは、やはり「自分の幸せは自分で守る。」という姿勢だと思います。母にとっては、可愛い我が子をいかに守るかということかもしれません。人生一度しかないのですから、自分の人生を大事にしたいです。そうしたら人の人生も大事に出来ますね。戦争も無くなります!?

   目次へもどる      次ページへ