少子化が年毎に進んでいます

 「朝夕めっきり寒くなりました。」昨年の10月号マンスリーニュースもこんな書き出しで始まっています。喘息発作も多いです。最近の喘息治療の原則は、ご存じと思いますが、「発作ゼロ作戦」です。その為に、比較的早期からステロイド吸入を使用します。発作回数が多い場合は、年齢の低い時期(2〜3才)から特殊な吸入器具を使って吸入することもあります。実際、発作抑制効果は抜群です。乳幼児期からの「発作ゼロ作戦」が、喘息の成人期移行を抑えるかどうか注目されるところです。
 さて、今月のマンスリーニュースは、年ごとに最低値を更新している出生率(少子化)について考えましょう。

 最近、NHKスペシャル「63億人の地図」で世界の出生率についての番組がありました。今年6月に発表された日本の出生率は1.29と過去最低を示しました。出生率が2.0を切れば人口は減少する訳ですが、このまま日本の人口(1億2700万人)が低下すれば、100年後には、半分になってしまうそうです。そうなれば、老人ばかりで若者の少ない活気のない国になってしまうでしょう。
 さて、日本の少子化は、何が原因なのでしょうか。小児科外来での診療は、日本の子育ての生の状態を見せてもらっているということです。そう思って眼を凝らして見るといろいろ見えてきます。
 日本の少子化対策は、保育所を増やすことから始まりました(エンゼルプラン)。働きたいお母さんは乳児期早期(生後2-3ヶ月)から赤ちゃんを預けることも出来ます。医療費を自治体が負担するという政策も進んできました。それにもかかわらず出生率は低下しています。子どもを生める女性が産みたいと思う気になれない、仕事の方が楽しい。結婚しても子どもは生みたくない(精神的にも経済的にも)、あるいは生まれても一人で充分という気持ちにさせてしまう状況があるのでしょう。
 日本の職場環境はどうでしょうか。仕事の面白さを感じてきている時期に子どもが出来るとそれが中断されてしまう。子育て中の女性は、子どもに手を取られるために一人前と見てくれない。子どもが出来ると会社を辞めるのが当たり前。1986年に施行された法律「男女雇用機会均等法」も口先だけのものになっています。また、育児休暇はあっても周りの眼がとらせてくれません。子どもが病気でも仕事優先、直ぐには保育所へ迎えに行けません。熱を出していても、病児保育へ預けざるをえません。本当は病気の時くらい側にいてあげたいですね。
 日本のお父さんはどうでしょう。男は仕事、女は育児と考える人もまだ多いです。しかし、最近はお父さんが、子どもを連れて外来を受診することも多くなってきました。お父さんの育児参加も若い夫婦では当然になってきています。お父さんが子育てに参加することによって、子育ての楽しさを知る機会になるかもしれません。
 子育ての楽しさについてはどうでしょう。保育所にあまりにも早く任せてしまうことは、赤ちゃんとの密着が少なくなり湧き出てくる愛情の量に影響を与えるように思います。小さい時の充分な接触が母親の子育ての自信や愛情の基盤になるのです。子どもにとっても、母親にとっても愛情の生まれやすい環境を作ってあげたいです。お互いに愛が芽生えてこそ、「子育てが楽しい」と感じることが出来るのです。
 赤ちゃんは、どう感じているでしょう。早くから保育園に預けられて、保育師さんが、お母さんと勘違い。お母さんが遅くに迎えに来ても、「保育師さんと一緒にいたいよー。」お家に帰っても泣きやまなかったら、お母さんに嫌われてしまった。お母さんは「こんなになつかない子は要らないよ。育児なんて面白くない。」バンバン。もっとお母さんと一緒にいて、1才までは母乳が飲みたいなー。
 日本での出生を妨げる原因が、実生活の中に潜んでいることがいろいろ見えてきました。少子化は、先進国づらをしている日本の国に突きつけられた女性からの挑戦状かもしれません。男に生まれても、女に生まれても同じように幸せであるという事が人類が目指すべき方向だと思いますが、日本では女性が子どもを生むことに、不安があると感じてしまう状況が明らかに存在しています。
 番組では、愛知県刈谷市のファミリーサポート制度が紹介されていました。子育ての済んだ主婦がボランティアとして、子どもを預かってくれるのです。お母さんに少し余裕が生まれました。また、育児休暇を1年から2年に延長した会社も紹介されています。長い休暇も職場からの定期情報によって、取り残されることがないように配慮されています。職場が子育て中のお母さんをサポートするという、これからの日本が目指すべき理想的な環境です。男性社員の育児休暇が設定されている会社が出てきましたが、まだとった人がいないそうです。また、デンマークの進んだ育児環境が紹介されましたが、眼を覚まさせてくれる程の素晴らしさです。父親が育児休暇をとって、育児をサポートしています。男女が同じように働ける環境を作る過程で出生率も上がって来たそうです。保育園、産休育休の給与保障、父親の産休、児童手当などがその政策ですが、男性、女性のそれぞれの個性を生かしながら子育ても職場も平等にこなすというものです。男性だけでなく、女性も職業の面白さを味わう権利があるのです。税金は高いですが、「子どもを生むことに不安がない」という言葉にビックリです。
 デンマークの子育ては、日本で直ぐに真似の出来るものではないでしょう。しかし、日本の状況に合わせて子育て環境の充実をはかり、親が子育ての楽しさを余裕を持って体験できる環境を作ることは急務と思われます。なぜなら、最近の新聞紙上をにぎわす子ども達の状況は、子育ての現状と無関係とは思えないからです。その為には、子育てが人間社会において、職業と同じように重要な仕事であることを認識し、かつ子どもは人間の未来を担う存在であることを声を大にして叫びたいです。最近、夏川りみの「童神(わらびがみ)」という唄を聴きました。歌詞をご紹介します。

天の恵み受けてこの地球に
生まれたる我が子
私こそがお守りして育てる
愛し私の子
泣くんじゃないよ
お天道さんの光受けて
どうか良い子に
どうか何事もなく育ってね

 子育てはいつの時代も大仕事です。サボれば必ずどこかで「しっぺ返し」を受けます。誠心誠意の子育てが、普通の大人を育てるという事を忘れてはいけません。


        
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