おたふくかぜワクチンを受けよう

 10月も半ばを過ぎました。昼間は暖かですが、朝夕は涼しいですね。秋は喘息発作のシーズンですが、今年もそれは同様です。久しぶりにゼーゼーで、受診される子どもさんも多いです。続けて飲んでいたお薬も、発作が出ないとつい忘れがちになります。朝夕の吸入も「元気だからお休みしようか」となります。秋は、気圧や気温の変化も大きいですが、ダニが増える時期でもあります。風邪も少しづつですが増えています。そうです。秋は発作の引き金がたくさん出現する季節なんです。
 喘息治療は予防が大事!発作の波が出始めたら、素早く治療の防波堤再建を進めてくださいね。
 さて、今月のマンスリーニュースは、大流行中の「おたふくかぜ」について勉強しましょう。

 10月10日の北国新聞健康欄に「おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)」の特集記事が載っていました。大きな見出しで「難聴になる危険性も」と書かれていましたので読まれた方も多いと思います。髄膜炎や睾丸炎は有名ですが、「耳が聞こえなくなる」という合併症は初めて聞いたという方もおられるでしょうね。
 当院のマンスリーニュースでは、平成6年1月号と平成13年11月号に、おたふくかぜが猛威を振るっているという記事が載っています。平成6年の記事の最後に、
「1500人に1人の割で、難聴が起こることもあります。多くは片側のみで回復しません。・・・・(最後は)『ワクチンを打とう』」で締めくくられています。10年前にも難聴は言われていたのですが、注目されていませんでした。最近の大規模な合併症調査で、難聴は数千人に1人だそうですが、ハッキリとした数字は難しいというのが本当かもしれません。しかし、起こることはハッキリしています。おたふくの難聴がたまたま両耳に起こって、人生が変わってしまった人の話も聞きます。諸外国のようにおたふくワクチン接種が公費で2回、全員に行われる日がまちどうしいですね。
 右の棒グラフは北国新聞に載っていた1999年からの年間おたふく患者数を示したものです。平成13年(2001年)と今年の患者数増加が明らかです。

  おたふくかぜについて

 おたふくかぜについておさらいしましょう。おたふくかぜは、おたふくかぜウィルスの飛沫感染で起こります。ウィルスの排泄は、唾液腺が腫れる6日前から、腫れた後9日目位まで唾液に認められます。ですからこの期間内は感染する可能性があります。潜伏期は2〜3週間です。初めの症状は、唾液腺が腫れる12〜24時間前から認め、寒気や頭痛、だるさなどです。発熱は初め、軽度から中等度です。その後片側あるいは両側の唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)が腫れて痛みます。特に酸っぱい物を食べて唾液が出たときや、硬い物を食べると痛みます。感染しても症状の出ない人が3人の1人いると言われます。唾液腺が腫れるに連れて熱は上昇し、時には40℃まで上がることもあります。また、唾液腺が腫れたからすべておたふくかぜとは言えません。細菌感染(化膿性耳下腺炎)や他のウィルス感染で唾液腺が腫れることもあるからです。確定診断は、血液の抗体を調べることでハッキリします。
 当院では血液検査として、白血球、CRP(炎症反応)、血清アミラーゼ(唾液腺で作られている消化酵素)、おたふくのIgM抗体、おたふくのIgG抗体等を調べます。白血球や炎症反応が正常ならば細菌感染による耳下腺炎ではないでしょう。血清アミラーゼが上昇していれば耳の下や顎の下の腫れが、唾液腺の腫れという証明になります。数日後おたふくのIgM抗体とIgG抗体の結果が来ます。IgMが上がっていて、IgGが少し上がっていれば、今回の唾液腺の腫れはおたふくかぜと確定されました。しかし、時には教科書通りにいかない場合もあります。お母さんが耳下腺を腫らして受診されました。子どもの頃におたふくかぜにかかったことがあるそうです。抗体検査で、IgMは上昇していないのに、IgGが著明に上昇していました。この時の診断は、おたふくかぜの再感染という診断になります。おたふくかぜは、以前は1度かかれば2度とはかからない終生免疫という事になっていましたが、そうではないんです。昔かかって免疫が出来ても何年もおたふくかぜウィルスに接しないと抗体が次第に下がってきてしまいます。終生免疫というのは、時々おたふくウィルスに感染して発病することなく抗体産生が行われ、抗体維持が起こるために2度とかからない状態が作られていたのです。ワクチンが普及して回りにおたふくウィルスがいなくなり、感染の機会がなくなれば抗体は年々下がってしまいます。このお母さんはその状態で久しぶりにおたふくウィルスに出会いました。しかし、保持されている抗体が少なかった為に発病してしまったのです。その為に、IgM抗体は作らずにIgG抗体を一生懸命作ったのですね。
 少し難しいお話になりましたが、いろいろな状態における抗体の動きについて右表に示しました。この表を見ながら患者さんのおたふくの状況を診断しています。
 ワクチンが普及してくると元の病気にかかり重症な合併症や命を落とす心配はなくなりますが、完全に地球上から消えていない限りワクチンの効果が切れる頃に、たまたま流行して感染する機会がないとは言えません。将来のワクチン接種は、すべてのワクチンを生きている限り10年あるいは20年に一度接種しながら予防する時代になるでしょうね。その頃は注射は痛いから、飲み薬や点鼻薬で投与すれば大丈夫になっていればいいな。少し脱線しましたが、言いたいことは
「おたふくかぜの合併症、特に難聴予防にワクチンを受けましょう。効果は90%です。」
                    注射されるの大嫌いな院長より

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