金沢で日本小児科学会

 天候不順な日々が続いていますが、体調はいかがですか。当院の外来もインフルエンザは下火ですが、お腹に付く風邪が流行っています。「下痢や嘔吐が激しいときは、アクアライトやアクアサーナ、最近ではオーエスワンという吸収の良いイオン水が売られていますからそれを飲ませて、水分補給をしてくださいね。イオン水にはポカリなどのスポーツドリンクよりも多めの塩分が含まれています。下痢や嘔吐で身体の塩分が足りなくなっていますから、塩分が濃いめのイオン水が必要なんです。」と毎日お話しています。また、下痢や吐き気が無いのにこれらのイオン水を飲ませている親御さんには、「吐いたり下痢がない時には、塩分がほとんど含まれない番茶や白湯で良いですよ。」とお話しています。

 金沢で約70年ぶりに日本小児科学会が開催されました。2年ほど前から、金沢大学小児科が中心となって準備を進めて来た集大成が4月21日から3日間に渡って披露されました。この間に、全国から3800名余りの小児科医を初めとする関係者が集まっていただけたそうです。会場は、金沢駅周辺の音楽堂を中心に3つのホテルに分散して演題が発表、展示されました。小児科と言ってもその専門分野は多岐にわたります。先天代謝異常、遺伝、内分泌、免疫・膠原病、未熟児・新生児、感染症、循環器、血液・腫瘍、精神・心理、アレルギー・呼吸器、神経・筋、川崎病、消化器・栄養・発育、腎・泌尿器、小児外科、小児救急。どうです、盛り沢山でしょう。それぞれの分野でスライド発表やパネル発表が行われました。私は、全部休診にして3日間通えれば良かったのですが、お腹に付く風邪やインフルエンザも完全には治まっていなかったので、最初の日の午後だけ休診にして参加しました。初日の昼からは、金沢大学小児科教授、小泉先生の会頭講演です。大先輩の講演ですし、「世界で初めて見つかった病気」のお話ですから大変興味がありました。大講堂も聴衆でいっぱいです。
 患者さんは2才頃から発熱、発疹、肝臓腫大などの全身の炎症、さらに赤血球が壊れたり、血液が固まりにくい、また腎臓や血管の障害も起こすなど、いろいろな症状を示し、ひとつの考えでは説明できない病状を呈していました。それから3年、診断の付かないまま経過していましたが、ある時生化学の教科書を見直しているときに、ひとつの酵素が足りないのではないかと思い至ったそうです。その方向に検査を進めてみると、「ヘムオキシゲナーゼ(HO)-1欠損症」という世界でも報告のない新しい病気の発見につながりました。この酵素は、人のストレスを防ぐ役割を担っている酵素でした。小泉先生は、「偶然と思われる事件を、粘り強く観察し、データを集めて分析する。その継続が、意外なこと、ささいなことの発見につながります。さらにそれを素直に受け入れ、棄てずに挑戦することが大切である」と研究者の心構えを話されました。開業医も頑張らなくゃ。
 その後は、ポスター展示を見て回りました。終了後は、参加会員総出の懇親会です。やはり会場はいっぱいでした。食べるものも沢山ありました。金沢の新鮮な食材がふんだんに使われた洋食、和食は全国から集まられた会員の胃袋を質と量の両面から満足させるものでした。懇親会の後は、小児科のメーリングリスト仲間の場所を変えてのオフ会です。普段はインターネットを介してのメールのやり取りで、顔も存じ上げない先生とのご対面です。前から知っている先生もおられましたが、初めてお会いする先生もおられました。普段のメールでの言動とお顔が一致しない・・・そりゃそうだ。顔でしゃべってるわけじゃないんだからね。自己紹介からグループ移動と、お世話する先生の気遣いが伝わってみんなが仲良くなれました。未来を担う子ども達の事を精一杯考えている仲間達の集まりは、何と快いものでしょうか。「こうして欲しい、ああして欲しい。ワイワイガヤガヤ」御上にお願いする声をもっと大きくしなくちゃ届かないよ。小児科医は、子ども達の代弁者なんだから、もっと駄々をこねようよ。子どもみたいにさ。子どもを見習おうよ。道端に寝転がって、足をバタバタ。「これ買ってくれなきゃ動かないよー」
 2日目は土曜日です。天気もやや回復。朝から4時まではお仕事に専念しました。前日の午後が休診だったせいか、忙しかった。夜は、オフ会のグルメ会。詳細は省略します。
 さて、最終日の3日目です。日曜日でしたが、早めに起きて金沢の小児科仲間の発表を聞きに行きました。
 まずは小松の○○先生のインフルエンザと学級閉鎖のお話です。県内小児科医が作るメーリングリスト仲間からの学級閉鎖前後の欠席率を報告してもらい学級閉鎖がインフルエンザ感染を防げるかどうかを調べたものです。前回は2日間の効果を見たのですが、効果はありませんでした。今回は3日間休んだときの効果です。結論から言えば3日間でも効果はありませんでした。他の報告では4日間だと効果があるという事ですが、現在の学校状況で、4日間も休校にするという事は難しいでしょうが、もし機会があったら比較してみたいという結論でした。白山市ではインフルエンザ流行中に休校にしたという話は最近聞きません。噂では、休みにしても家に子どもの面倒をみる人がいないから、軽々しく休校には出来ないという事らしいです。校長先生も決断に苦慮されているのでしょうね。
 もうひとつの発表は、野々市の○○先生の石川県内小児科医100名余りのメーリングリストを使った活動を報告したものです。麻しんやインフルエンザなど、重要な感染症についていち早く報告し、出来る限り感染の拡大を防ぐという画期的な報告は、全国的にもまだ珍しいものです。小児科医の結束が固いという事でしょうが、それもお世話をする先生の熱意が伝わってくるからでしょう。また、これに関連して金沢工大での麻しん集団発生に対する学生6000名への迅速なワクチン接種のすさまじさも報告されました。それによって麻しん流行を最小限に抑えることが出来ました。さらに、インフルエンザ流行時の患者報告も県内流行状況を把握するには大変有用であることも報告されました。前日の情報を見ながら、「この保育園でも出たんだな」、外来に来られたときは既にインフルエンザ疑いの診断が付いているわけです。隔離室で待ってもらい、迅速試験をすると陽性でした。
   (当院付近では、未だにインフルエンザB型が潜行中です。お気を付け下さい。)
 念願の日本小児科学会も、最終日の「市民公開講演会(大江健三郎)」とパイプオルガン演奏を最後に無事終了しました。金沢らしい手作りの小児科学会でした。3日間の金沢の思い出が、これからの診療の励みになりますように。


    
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