マンスリーニュースも
        ついに200号を迎えました

 もう平成20年も7月です。1年の半分が過ぎてしまいました。毎日、蒸し暑い日が続いていますが体調はいかがですか。。北陸は、まだ梅雨明け宣言も聞かれませんが、明けて更に熱波に襲われるのはゴメンですね。
 さて、マンスリーニュースも今回でついに200号を迎えることになりました。そして、白山市に医院を開業して20年目になりました。長いようですが、経ってみるとアッと言う間の20年でした。小児科医として、子ども達の幸せを第1に考えてやって来たつもりですが、いろいろな行き違いもありました。マンスリーニュース200号で、20年間の診療で出会った子ども達の思い出、とくに今回はヒヤリ、ハッと、そしてビックリさせられた患者さんについてお話したいと思います。

  ヒヤリ、ハッと、そしてビックリさせられた患者さん

脱水症のA子ちゃん:開業して5-6年目のことだったと思います。1才過ぎの女の子が下痢と吐き気で初めて受診されました。大変おとなしい子どもさんで、診察中も泣きません。昨晩から水様便が4-5回あったとのことです。少し吐いています。表情はケロッとして、あまり重症感は感じませんでした。「お腹の風邪」と診断して、点滴はせず40ccのブドウ糖に吐き気止めを混ぜて静脈注射しましたが、その時もあまり大きな声で泣きませんでした。そのまま、お薬を処方して帰られましたが、夜になって「元気がない」ということで総合病院を受診され、入院となりました。翌日、お見舞いに行きましたが、お父さんは、「もっと早く紹介してくれたら良かった」ときつく言われました。主治医の先生のお話では、私が思っていたよりも脱水が強かった様でした。そこで「ハッ」と思い当たりました。おとなしいのではなくて元気がなかったのだなと。脱水が軽症か重症かを見分けることは大変重要なことですが、子どもの表情があまりにもケロッとしていたので、これは大したこと無いと決めつけてしまっていたのです。そういう思い違いをする時は、たいてい頭の片隅に何か気になることがあって、診療に集中出来ていないときです。脱水は、手遅れになれば命にかかわります。お父さんのおしかりの言葉を肝に銘じました。


 
血便トロリのB子ちゃん:生後3ヶ月のB子ちゃんが、吐いたという訴えで初めて受診されました。確か休日のお昼頃のことです。無表情で、泣いてもいません。お母さんのお話では、あまり泣かないとのことです。咽頭の赤みも強くありません。「お腹の風邪」でしょうということで、様子を診ることにしました。その日の夕方、再び吐いたと言うことで再受診されました。やはり、無表情で泣いていません。お腹も張っていません。「吐き気止めの座薬を使いましょう」ということで、その場で私が座薬を肛門に押し込んだところ、血液の混じった便がトロトロとあふれ出しました。私は心の中で「ウワー」と叫びました。頭には「腸重積」という診断名がフワフワと浮かびました。「でも待てよ」、まだ生後3ヶ月だなー。しかし、後から調べてみると、ネルソンという有名な小児科の教科書には、生後3ヶ月から起こりうると明記されていました。ベビーは、直ぐに総合病院の小児外科へ紹介しました。普通の治療は、造影剤のバリウムを肛門から漏れないように注ぎ込んで、その圧力で腸の重なった部分を元に戻すのですが、ベビーが小さいことと少し時間が経っている事から、開腹手術をすることになりました。無事退院されましたが、後から支払いに来られたお母さんは、「もっと早く紹介してくれたら、お腹を切らないで済んだのに」と私に恐い顔で話されました。「生後3ヶ月の腸重積は珍しいし、痛いはずなのに泣かなかったのでー」と言葉に出しそうになりましたが、飲み込みました。でも良い薬になりました。当然苦かったです。


 
悪い細胞多数のK男くん:開業して6年目の頃です。喘息で治療していた8才のK男くんが、喘息は調子良いが、体調が悪いと言って3ヶ月ぶりに受診しました。元気が無く、顔色もすぐれません。何となくイヤな感じで診察を進めているうちにお腹の触診になりました。案の定、肝臓と脾臓が腫れています。「貧血もあるみたいだし、血液検査してみようね」と言うことで、採血して検査センターの返事を待つことにしました。夕方になって検査センターから問い合わせがありました。血液が、異型性のある白血球で占められているという悪い知らせでした。直ぐ検査センターへ向かい、血液の標本をいただいて、大学の専門の先生に診てもらいました。診断はやはり、血液のガン、白血病でした。すぐ紹介の手続がとられ大学病院へ入院されました。開業して初めての体験でした。「まさか、喘息で治療していた彼が白血病にかかるなんて」というのが本当の気持ちです。しかし、その彼も闘病生活に耐え、現在22才になりました。とても元気です。発病が10年早かったら命を落としていたかも知れませんが、現在の薬物療法、骨髄移植など、治療法の進歩で命を落とさずに済むことが多くなっています。また、数年前やはり喘息の子どもさんで白血病を発病しました。その子も外来治療を受けながら元気に学校へ通っています。私が30年前、金大で受け持った白血病の小学校1年生は、闘病生活6年目に命を落とされました。その頃はまだ治療法も不十分で骨髄移植も受けられませんでした。

 とくに思い出に残り、小児科医としての経験を深めていただいた子ども達のお話をお伝えしました
。医療ミスで裁判になることが増えている時代ですが、一生懸命やっていてもどこかで歯車が噛み合わなくなる場合もあります。医療は、人間が人間に対して行う大変責任の重い仕事ですが、病気から逃れることが出来ない人間としては、最新の医療をいかにミスを少なく提供してもらえるかにかかっています。私が患者なら、やはり人間的にも信頼できるお医者さんに診てもらいたいと思います。技術も大事ですが、それだけで充分というわけにはいきません。治療の方法や危険性など十分に伝えてくれて、一緒に考えてくれるようなドクターにあこがれます。私も、そんなお医者さんになりたいなー。


   
目次へもどる    次ページへ