早期保育・病児保育は誰のため?

   あけまして
     おめでとう
      ございます

 2009年、うし年の始まりです。今年も雪の殆どないお正月でした。鶴来の白山さん(しらやまさん)へ家族と初詣に出かけましたが、山のふもとの地にも雪はほんの少々見られるだけでした。「おみくじ」を引いたら大吉でした。良いことばかりが書いてありましたが、「だからといって気持ちをゆるめすぎたらいけないよ。」とも書いてありました。この年になると、「そのとうりだな。」と納得できます。人間良いことばかりは続きません。今年も「七転び八起き」で行きましょう。
 さて、新年のマンスリーニュースは、子育て支援の核心に迫ってみることにします。そうです。「早期保育・病児保育とは何か」という問いに私の考えをお話ししてみたいと思います。

  早期保育は当たり前?

 今月のある日、鼻水いっぱいの生後3ヶ月の赤ちゃんが受診されました。鼻水が多いのでぐずっています。お母さんに聞いてみました。「家族に風邪の人がいるの?」落ち着いた感じのお母さんは、「いえ、いません。」と答えられました。「赤ちゃんと混雑したスーパーにでも行ったのかな。」と、勝手に考えていましたが、その考えを訂正するかのようにお母さんの声が響きました。「今、慣らし保育中なんです。」お話しでは、慣らし保育を初めて1週間とのことでした。それで鼻水の原因が分かりました。生後3ヶ月の赤ちゃんは、保育所で接した赤ちゃんから早々と鼻風邪ウィルスの洗礼を受けていたのです。
 私が嘱託医をしている保育園にも少数ですが、1才未満の乳児が保育を受けています。お母さんが仕事を続けるために乳児、それも早い時は生後2〜3ヶ月の赤ちゃんを預けて仕事復帰をされています。景気の悪い時代ですから、パートで午後5時とか6時まで働いてくれる女性の労働力は貴重に違いありません。鼻風邪赤ちゃんのお母さんも、もうすぐ仕事復帰で、仕事は午後5時までとのことでした。私の心に不安な気持ちがよぎりました。お母さんと接する時間が何と短いのでしょう。赤ちゃんにとって、初めて接する人間・・・お母さんと密着する時間がたった3ヶ月で途切れてしまうのです。お母さんとの信頼関係を育てる大事な時期に、首も座ってない赤ちゃんを預けるのはお母さんにとっても辛いことです。仕事場の机を、1年間ぐらい確保することは出来ないのでしょうか。それに保母さんをお母さんと間違えてしまうことはないのでしょうか。以前に聞いたことがあります。夕方、お母さんが仕事に疲れて、保育所に赤ちゃんを連れに行きました。保母さんから、お母さんに手渡された赤ちゃんが泣きやまないのです。お母さんは悲しい気持ちになりました。でも赤ちゃんにとっては、長く接してくれる保母さんを、お母さんと勘違いしても誰が責めることが出来るでしょう。泣きやまないわが子を見つめて、もしお母さんが赤ちゃんを邪険に扱ったとしても、やはり誰が責めることが出来るでしょう。
 赤ちゃんとお母さんの信頼関係が育つ事が、その子の人生に大きな意味を持つ事は明かです。たとえ、早期に赤ちゃんを預けざるをえない時にも、お母さんが育児の主役として行動出来るよう、周囲の人たちの応援が欠かせません。当然、お父さんのねぎらいの言葉や、育児休暇を利用した父親育児の時間を作ることも当たり前であってほしいです。社会全体が、子育てを男性の仕事以上に、社会にとって大事な仕事であることを認識する必要があります。何故なら子どもは未来だからです。エレベーターに乳母車が乗ってきたら、「可愛いネー」とか「笑顔が良いネー」とか声をかけてあげましょう。社会(大人)が親切になれば、それを見ていた、子ども達も親切になります。お母さん、お父さんの育児エネルギーも高まります。少子化も解決です。これは大げさではなく、未来をになう普通の大人を育てる為の最小限の約束事だと思います。

  病児保育は誰のため

 さて更に核心に迫りましょう。病児保育は誰のためか。赤ちゃんの為か。お母さんの為か。社会のためか。会社のためか。なかなか難しいです。その人の立場によって考え方は変わるでしょう。小児科医はどう感じているでしょうか。小児科医が自分の病院に附属した病児保育施設を作る場合も多いと思います。子どもの急な発熱に、大事な仕事をほっぽり出すわけにはいかない事情があるのは理解できます。よく発熱をする赤ちゃんのお母さんは、その度に休んでいたら、いつクビになるか分からないという事情もあります。急に熱の出た子どもを、心配でもやむなく預けるというのがお母さんの本当の気持ちではないでしょうか。もし許されるなら、病気の赤ちゃんの側にいてあげたいと感じるのがベテランのお母さんでも、新米のお母さんでも一緒だと思います。
 さて、主役の赤ちゃんの気持ちはどうでしょうか。「赤ちゃんは物を言わないから分からないよ」と言うのが本当のところです。しかし、小児科医は赤ちゃんの代弁者でなくてはなりません。そこで赤ちゃんの代弁をしましょう。「何だか分からないけど身体が熱いよー。何だかおかしいよー。咳と鼻水で苦しいよー。お母さんと一緒にいたい気分だよー。お母さんに抱かれていたいよー。不安だよー。病児保育園なんて行きたくないよー。」こんな風に感じているでしょう。そうです。別に赤ちゃんに聞いたわけではありませんから「本当の気持ちかなー」と疑われても仕方ありません。
 病気のたびに預けられる。不安な気持ちのたびに預けられる。不安だけど我慢だねー。仕方ないねー。もー泣かないよ。いい子になるからたまに抱っこしてね。お母さんの愛している気持ちが、十分伝わらないままに成長していく気がします。「もっともっと抱かれたかったなー」という気持ちをいだきながら成長していきます。子どもを十分に愛しているのに、それが伝わりやすい病気の時に預けなくてはならないなんて。なにかおかしいです。早期保育も病児保育もお母さんとの愛と信頼の絆を細くするように働いていないでしょうか。代弁者は本当にそれが心配です。病気の時こそ、お母さんが十分接してあげられる環境を作ってあげるべきだと思いますが如何でしょう?

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