新しい日本脳炎ワクチンはどうなったの?

 今日は6月7日です。季節性のインフルエンザは、全国的にほとんど報告されなくなりました。5月5日に最初に日本で報告された、新型インフルエンザも新聞を賑わす事はなくなりましたが、国内でも、世界でもボチボチと拡大しています。6月5日の報道では世界70カ国で2万人が感染し、国内でも414人が感染しています。6日には、山口県でも感染が確認されたそうです。石川県は、未だですが、いつかは入ってきそうです。油断大敵ですね。外出から帰ったら、うがい、手洗いは大事です。外出時はマスクも手放せません。私もカバンにいつも入れていますが、何となく未使用です。これはいけませんね。反省!
 さて、今月のマンスリーニュースは、「新しい日本脳炎ワクチンはどうなったの?」です。「やればいいの?」「やらなくてもいいの?」「でも、副作用は無くなったの?」・・・いろいろな疑問にお答えしましょう。

  日本脳炎ワクチン接種に関するQ & A

 6月2日(火)から新しい「乾燥細胞培養日本脳炎ワクチン」が、日本脳炎の定期第1期接種に使用可能になりますが、患者さんや親御さんの疑問に答えられるよう「日本脳炎ワクチン接種 Q & A」を作ってみました。

 日本脳炎とはどんな病気?

 日本脳炎ウィルスの感染によっておこる中枢神経(脳や脊髄など)の病気です。感染は、人から人ではなく、ブタなどの動物の体内でウィルスが増えた後、そのブタを刺したコダカアカイエカという蚊に、人が刺されて感染します。東アジア・南アジアに多い病気です。
 ウィルスを持つ蚊に刺されても、症状もなく経過する人(不顕性感染)がほとんどで、100人から1,000人に1人が発病すると言われています。症状が出る場合は、感染して6日から16日の潜伏期間の後に、数日間の高熱、頭痛、嘔吐などで発病し、引き続き急激に、光への過敏症、意識障害、けいれん等の中枢神障害を起こします。大多数の人は、無症状に終わるのですが、脳炎を発症した場合は、20〜40%が死亡すると言われています。特に幼児や高齢者では死亡率が高く、回復しても半数程度の人は、重い後遺症が残ります。
 最近の日本での患者数は、ワクチン接種の効果や蚊に刺される機会の減少などで年間数名で、主に中高齢者がかかっています。しかし、平成18年9月に熊本県で3才児の発症が報告され、翌年の3月には広島県において19才での発生が報告されました。また、日本国内でも地域によって発症数は異なります。過去10年間に58例の患者さんが出ていますが、九州・沖縄地方が38%、中国・四国地方が40%とそのほとんどを占めています。北海道・東北はゼロ、関東地方は3例、甲信越地方は2例に過ぎません。(日本地図を見てください)

  日本脳炎ワクチンとは?

 これまでの日本脳炎ワクチンは、日本脳炎ウィルスを感染させたマウスの脳の中で、ウィルスを増殖させ、高度に精製し、ホルマリンなどで不活化(病原性をなくす)したものです。これに対して、新しいワクチンは、日本脳炎ウィルスをVero(ヴェーロ)細胞(アフリカミドリザル腎臓由来株化細胞)で、増殖させ、得られたウィルスを採取し、ホルマリンで不活化しました。当然、マウス脳を使用していません。
 さて、これまでのワクチンで問題となったADEM(急性散在性脳脊髄炎:最後のページに詳しく解説してあります)などの副反応が少ないと考えて良いのでしょうか。
 新しい日本脳炎ワクチン、つまり「乾燥細胞培養日本脳炎ワクチン」は、国内ではVero細胞を用いて製造される初めての医薬品となること、海外では他の細胞培養ワクチンにおいても
ADEMが報告されていることから、新しいワクチンの使用にあたっても、重症な副作用に関するデータの収集及び評価を行うこととされており、今後も十分注意が必要と考えられています。

  日本脳炎ワクチン接種スケジュール

1期(3回)
  初回接種(2回):生後6ヶ月以上90ヶ月未満
            (標準として3歳)
  追加接種(1回):初回接種後おおむね1年後
            (標準として4歳)
2期(1回):9歳以上13歳未満の者
          (標準として9歳)

 上に日本脳炎ワクチン接種スケジュールを示しました。日本脳炎は、定期の予防接種の対象疾患(無料で接種できる)になっていますが、日本脳炎が発症していない地域では、知事の判断で接種をやめることが出来ます。この考えから、北海道のほとんどの地域で、日本脳炎ワクチンは接種されていません。

  日本脳炎ワクチンはどうしても必要か?

 日本脳炎ワクチンはどうしても必要なのでしょうか。北海道では接種してない地域が多いというお話しもありました。ではどのような時に接種が必要なのでしょうか。
 日本脳炎ワクチンの接種をこれまで一度も受けてない、現在3〜7歳の子どもで、日本国内でブタにおける抗体保有率の高い地域や、最近日本脳炎患者が多く認められている地域では、日本脳炎にかかる危険性が依然として存在すると考えられますので優先的に接種をした方がよいと考えられます。
 上図に2008年7月〜10月までの日本国内のブタがどの位日本脳炎ウィルスの抗体を持っているかを調べた結果を示しました。7月から10月になるにつれて、抗体を持っているブタが増えています。つまり、日本脳炎に感染したブタが増えているのです。石川県も、8月中旬には水色から黄色に変化しています。

  より安全に日本脳炎ワクチンを接種するために

 平成17年5月に定期予防接種として、日本脳炎ワクチン接種の積極的な勧奨(押し進めること)を差し控えた理由は、これまでのマウス脳を用いた日本脳炎ワクチンを接種した後に重症ADEMを発症した患者さんがおられたためです。より慎重を期するため、積極的勧奨を行わないよう市区町村に伝え、強く希望する人に対しては、定期接種として接種を行って差し支えないという通知をしました。
 新しいワクチンについても、今年夏までの供給予定量が定期接種対象者全員の必要量に満たないことや安全性の確認等の観点から、現時点においては積極的に勧奨する段階に至っていないと判断されています。
 さて、子どもに日本脳炎ワクチンを接種したいという気持ちが高まってきましたね。上のグラフを見てください。年毎に低年齢児の抗体が低下しているのが分かるでしょうか。
 さあー、早く接種したいですね。でもその前に、新旧ワクチンが存在する現在、供給量も少ないのでいろいろ取り決めがなされています。初回接種2回が済んでいて、追加接種を希望されている子どもさんは、新しいワクチンではなく、これまで使っていたワクチンを接種することになっています。かかりつけ医にワクチンがあることを確かめてから(予約する必要があるかも知れません)、保健センターで承諾書をもらい必要事項を記入されてかかりつけ医で接種を受けて下さい。
 まったく初めて日本脳炎を接種される場合は、新しいワクチンを使います。しかし、現在1ヶ月に10本のみしか医院に入ってきません。生産が遅れているのです。ですから、かかりつけ医で新しいワクチンが子ども用に確保出来ていることを確かめてから、健康センターで承諾書をもらい記入して受診して下さい。承諾書に関しては、必要ない市町村もあるかも知れません。それは確かめてみて下さい。
 さて、そろそろ接種できそうですね。でも待って下さい。日本脳炎ワクチンが勧奨されなくなって、何となく接種しないでいるうちに、定期接種の対象年齢を過ぎてしまった子どもさんはいませんか。この場合は、アウトです。つまり無料では接種できません。でも、ワクチンの供給が豊富になれば平成22年以降、ある一定期間、経過措置として無料で接種出来るようになりそうです。情報を聞き逃さないようにしていましょう。
 万が一、ワクチン接種後に重大な副反応が出てしまったらどうなるのでしょう。厚生労働大臣が、これはワクチンの為に起こった障害だと認定した場合には、予防接種健康被害救済制度によって医療費の支給、障害年金の支給が行われます。
 予防接種法に規定されていない任意の接種や、予防接種法で定められた予防接種を定期接種の年令枠以外で受けた際に生じた健康被害については、「独立行政法人医薬品医療機器総合機構法」による救済制度の対象となります。新旧ワクチンで健康被害救済制度の違いはありません。

  日本脳炎にかからないための注意

 日本脳炎は日本脳炎ウィルスを保有した蚊が媒介し、感染します。一般的な注意として、日本脳炎ウィルスを媒介するコガタアカイエカは、日没後に活動が活発になると言われますので、この時間帯に戸外へ出かける必要がある時には、念のため出来る限り長袖、長ズボンを身につける、露出している皮膚への蚊除け剤の使用など、ウィルスを持った蚊に刺されないよう十分な注意をすることをお勧めします。
 また、コガタアカイエカは、水田や沼地など大きな水域で発生するので、住宅の周囲に発生源がある場合は、夜間の外出を控え、蚊が屋内に侵入しないように網戸を使用したり、夜間の窓や戸の開閉を少なくする、蚊帳を利用するなどの注意が必要です。


         ADEM(アデム、急性散在性脳脊髄炎)という病気

 ウィルス感染やワクチン接種後に、まれに発症する脳神経系の病気です。ワクチン接種後に起こる場合は、接種後数日から2週間程で発熱、頭痛、けいれん、運動障害等があらわれます。ステロイド剤などの治療で、多くの患者さんは正常に戻りますが、10%程の患者さんに運動障害や脳波異常などが残ると言われます。
 ワクチン接種は毎年たくさんの子どもに行われるので、ワクチン後にADEMがみられた場合は、その原因がワクチンかウィルス感染によるものかの判定は難しいです。現在の日本脳炎ワクチンには、微量ながらマウス脳が含まれる可能性があり(検出限界以下)、この成分によってADEMが起こる可能性が否定できない。しかし、一方で海外では乾燥細胞培養日本脳炎ワクチン以外の他の細胞培養ワクチンにもADEM発症例が報告されています。
 日本脳炎ワクチン接種後には、70〜200万回の接種に1回程度、極めてまれにADEMが報告されることがあると考えられています。万が一発症してもその多くは正常に回復し、通常再発しません。なお、新しい日本脳炎ワクチンについては、まだ、多くの子ども達に対して接種した成績がありませんから、副反応であるADEMについては今後の検討を待たなければなりません。
 予防接種副反応報告として報告されたADEMの多くは、予防接種法に基づく健康被害救済制度の申請をされると考えられますが、厚生労働省によると、認定を受けた方の数は、平成元年から平成21年3月までに18名で、その年令分布は、3〜7歳(初回接種)で11名、9〜12歳(2期接種)で0名、14〜15歳(3期接種)で7名となっています。
 現在、3期接種は廃止されています。


 日本脳炎とそのワクチンについて詳しく知りたい方は下記のホームページをご覧下さい。このマンスリーニュースの基になった記事が載っています。
 @http://www.mhlw.go.jp/qa/kenkou/nouen/index.html
 Ahttp://idsc.nih.go.jp/disease/JEncephalitis/QAJE.html


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