保育所とお薬

 朝夕めっきり冷え込むようになりました。秋ですね。関東の秋は冬までが長く、とても楽しめる季節なのですが、北陸の秋はアッという間にみぞれ混じりの冬に突入です。短い秋を有効に楽しみましょう。
 ところで、秋は喘息発作のシーズンです。いつもの発作が強めに出たり、久しぶりの発作に来院される患者さんも増えてきました。毎年のことですが、秋は治療の防波堤を高くして押し寄せる喘息の波に備えてください。
 さて、今月のマンスリーニュースは、保育所でのお薬服用について考えてみたいと思います。

  保育所でお薬

 軽い咳・鼻水で患者さんに風邪薬を出した時、保育所や幼稚園に持っていけば、保母さんが何の抵抗もなく上手にお薬を飲ませてくれる様子が何となく頭の中に入っていました。しかし、それは医者の勝手な考えだったのかも知れません。数年前から、「お昼のお薬は飲ませません」という施設の話をたびたび聞くようになりました。お母さんが、困ったようにそう言われたときは、「それならお昼のお薬は午後4時に帰って来てから飲ませてください。夜は、寝る頃にしましよう。」と譲歩することもあります。
 預かっている施設で薬を飲ませない(あるいは、飲ませられない)という原因は、忙しいからというより薬を間違えたときの責任問題や、薬を飲ませることが医療行為にあたるからということだと思います。しかし、病気によってはどうしても施設にいる間にお薬が必要になる場合もあります。金沢市では、医師会と市が確認書を交わして、保育所で薬を飲ませてもらえるようになりました。松任市でも、つい最近同じように飲ませてもらえるようになりました。それはそれで、子供たちにとって喜ばしいことだと思います。

  エンゼルプランの推進?

 今年、新年のマンスリーニュースで、エンゼルプランについてお話ししました。

 「平成六年十二月十六日に、厚生・文部・労働・建設四大臣合意により策定された『今後の子育て支援のための施策の基本的方向について』(エンゼルプラン)は、少子化が子どもの成長や社会経済に大きな影響を及ぼすことが懸念される中で、子育て支援に社会全体で取り組み、総合的・計画的に推進するために策定されたものであり・・・具体的には女性の社会進出の増加等に伴う、保育需要の多様化等に対応するため・・低年齢時保育や延長保育等の保育サービスを充実していく」・・ということです。手短に言えば、保育所の充実(保母さんの増加や低年齢の子どもも預かり、時間も延長)ということですが、保育所を充実させることが子育ての進歩なのか、とふと考えてしまいます。

 つまり、子供たちを長い時間預かるから、お母さん方、気兼ねなく働いてねと言っています。早いときは生後3ヶ月から預かってくれます。確かに早くから預かってもらえば子育ては楽に違いありません。しかし、小児科医からみると、子供と母親の肌の触れ合いがまだ十分でないのに、大事な時期に引き裂かれているように感じます。昔の人が「三つ子の魂」と言った言葉は伊達ではありません。母親が働きながらも、折に触れて子供との接触を図り、子供への愛情を育てられるよう支援し、逆に子供の親を求める自然な感情を断ち切らないよう支援するのが本当の子育て支援だと思います。・・・会社で「子供風邪休暇」が気兼ねなくとれる・・その間は、親がお薬の係りです。子供だってこの三日間は心おきなくお母さん(お父さん)を独占できる。保母さんにお薬係を依頼した今回の約束は、子供たちを少し親から遠ざけたかもしれません。そういう意味では、私の本意としないエンゼルプランを推進させてしまったように感じます。

  それでも共稼ぎしなくちゃ

 「先生、そんな格好いいこと言ったって共稼ぎしなくちゃたいへんだよ。」と言う言葉が聞こえてきます。そうだよねー。それなら、保育園から帰ってきたら、子供たちとホチャホチャになってスキンシップをやりましょう。子供が「もー、いや。」と悲鳴を上げるまで。時間の足りない分は、中身で勝負。お母さん、子供たちのためにたくましくなってねー。もともと、備えているからだいじょうぶだけど。

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