続・こころの病気
前回に統いて、こころの病気についてお話しします。
C君は小学3年生。幼椎園時代から友達などに暴力をふるって”問題児”とされて来ました。彼の振る舞いは規律の必要な集団生活に合わないことは事実です。入院して来ても、その行動は変わらず、3年生ともなれぱ力も強く、胸への一撃は息も止まるほどでした。
C君がそんな行動をとるのには理由がありました。父親から愛のない暴力を受けたことです。
いつしか彼にとってのコミュニケーション手段は、他人に力をもって対することだけになってしまい、胸への一撃も、「こいつは本当に信頼できるのか」という、彼なりの言葉だったのです。
圧迫感という暴力がこころの病の源に
人間の感情は本当に複雑で、それは、赤ちやんから幼児そして学童へと、親や周囲の人たちといろいろな体験を繰り返す中で育っていきます。生まれつきの性格や知能もあるでしょうが、人の情緒形成にその後の生活環境が大きく影響していることは明らかです。あるアンケーと調査でも、世界的な傾向として、昔の子供より現代の子供たちの方が感情面で病んでいることが確認されたと言います。

C君の場合は父親から明らかな暴力をふるわれて育ったのですが、他の多くの日本の現代っ子たちもまた、進学 偏差値など様々な精神的な圧迫感の中で、知らず知らずのうちに目に見えない”暴力”に接して育っているのではないでしようか。いじめや無差別暴力など、新間やテレビをにぎわせている度重なる若者の事件は、積もり積もった目に見えない暴声に対する感情的なはけ口だと受け取れなくもありません。
私もこれまで、少数ですがこころに病気を持つ子供たちと接する機会がありました。その中で、こころのエネルギーにも「エネルギー不変の法則」が当てはまると考えるようになりました。つまり、幼児期に受け取った楽しい思い出や思いやりのこころが人間の生きるエネルギーになり、その子供にも受け継がれていくということです。これが途切れたり、充分でないと、こころのエネルギーが少なくなって、病気になるのです。こころの病気はさらに、身体の病気も引き起こします。
”こころの知能指数”こそが生きる力では
では、エネルギーを途切れさせるものとは一体何なのでしょう。それは、人を取り巻く自然、あるいは社会環接です。人間は、自然の猛威や社会の圧迫が強すぎると、そちらにエネルギーを取られて、子供たちに充分な生きるエネルギーを伝えることができません。
IQ(知能指数)は誰でも知っている言葉ですが、最近、EQ(Emotional Inte11igence=こころの知能指数)という言葉をよく耳にします。ダニエル・ゴールマンは、IQの高い人が人生の成功者とは限らないことから、人間の能力差は、自制、熱意、忍耐、意欲などを含めた”こころの知能指数”に左右されると考えました。そして、これからの世界をより良く変えていくには、知能優先ではなく、人間として人間らしく生きる知恵こそ重要なのだと強調しています。
確かにそんな気がします。そうなれぱ、人間関係ももっとスムーズになり、こころのエネルギーが効率良く子供たちに伝わっていくのではないでしようか。
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