平成11年度
    乳幼児保健講習会に参加して

 今年はやっぱり暖冬なのでしょうね。富山で行われる冬の国体は、スキー場の雪が足らず自衛隊が雪運びに動員されたそうです。でも、この8日、9日の降雪で少し息をついたと報道されていました。また鶴来の「雪だるま祭り」も直前の降雪でどうにか無事催されたようです。雪のない冬は楽ですが、いろいろ影響も大きいですね。
 今朝(10日)、突然顕微鏡下に、スギ花粉を1個見つけました。2月1日に観察を開始して以来初めてです。雪の晴れ間をねらって飛び出した気の早い来訪者に、「春が近いんだなー」という思いと共に、自然の循環の不思議さを感じて(ムラムラと?)しまいました。
 さて、今回は記念すべき(自分だけ思ってます)第100号のマンスリーニュースです。何を書こうかと迷いましたが、やはり一番心配な子供達の未来について考えたいと思います。

 乳幼児保健講習会

 日本医師会主催の平成11年度乳幼児保健講習会が、1月30日(日)に東京で開かれました。 私は今年初めて参加しましたが人数が多く、日本医師会館大講堂はあふれんばかりでした。昨年参加された先生は、今年は参加者が随分多いと感心なさっていました。それだけ子ども達の未来に興味を持たれている小児科関係のドクターが多いと言うことなのでしょう。
 日本医師会長、文部大臣、厚生大臣(すべて代理の方)の挨拶に続き、大学教授、文部省技官、保育園園長、医師会理事など、子供と関係の深い先生方からのお話がありました。さらに子育てセミナーを地域で実践されている小児科開業医の追加発言もありました。今回のテーマは、「地域における育児機能の回復を考える」というものでしたが、講演の演題名と演者だけ書いてみました。

1.) 「これからの園医・嘱託医の役割を考える」
   小池 麒一郎先生
     (日本医師会常任理事)
2.) 「これからの保育所の活動と展開―保育所保育指針改正と地域子育て支援センター構想をふまえて―」
   網野 武博先生
      (上智大学文学部社会福祉学科教授)
3.) 「これからの幼児教育を考える」
   小田 豊先生
     (文部省視学官)
4.) 「子供は変わってきたか」
   猪俣 祥先生
     (湘南福祉センター平塚保育園園長)
5.) 「保育所・幼稚園に期待するもの」
   池田 琢哉先生
     (日医乳幼児保健検討委員会委員/鹿児島県医師会常任理事)
6.) 「子ども虐待ーその気づきと予防」
   才村 純先生
     (日本愛育会・日本子ども家庭総合研究所ソーシャルワーク
           担当部長)
7.) 「母親神話と3歳児神話」
   庄司 順一先生
     (青山学院大学文学部教育学科教授)

子ども達の笑顔が見えない

 私が錚々たる先生方のお話を聴いていて、「なるほど納得」という言葉も多かったのですが、「ちょっと違うなー」と感じたことも否定できません。「何かが違う・・・何だろう」と考えた時、いろいろなお話の中から子ども達の顔、それも笑顔が見えて来なかったのです。
 以前のマンスリーニュースでお話ししたエンゼル・プランという子育て支援の構想が、来年度から新エンゼル・プランとなって厚生省から打ち出されました。これは、簡単に言えば保育所の機能の強化(生後早期からの預かりと保育時間延長)と医師をも含めた子育て支援場所(病児保育など)を積極的に増加推進するというものです。核家族化によって子育てに四苦八苦されているお母さん方を支援し、子どもが病気でも仕事に打ち込める環境を作ることは社会にとっても必要なことかもしれません。しかし、そこから子ども達の笑顔は見えるのでしょうか。
 「三つ子の魂百まで」という格言から、3歳までは母親と出来るだけ密着した方がよいという言葉は、女性を家庭に閉じこめるために利用された嫌いはあるでしょう。しかし、私はこの言葉の真意を理解すべきだと思います。つまり、子どもが心身共にすこやかに育つためには、身近にいる人間が信じられる環境を生後早期に作る必要があるのです。更にその信頼は、物理的密着・・肌と肌の触れ合い・・によって築かれるという動物の親子の特質を、人間も持っている事を理解しなくてはなりません。この密着は子どもを生んだ女性が、母親としての自信と愛情を育てていく過程にとっても重要なのです。女性は、子どもを産んだから母親と言うわけにはいかないのです。その密着は、母親だけに限ったものではなく、状況によっては父親や、祖父母かもしれません。
 動物園でサルの親子を見たことがあると思います。小猿が必死になって母猿のお腹や背中にしがみついています。死んでも離すものかというくらいに。
 未熟児医療も変わってきました。タッチテラピーといって、お母さんが保育器から手を入れてその小さな身体を触ってあげるのです。その行為によって、母も親として目覚め、小さな赤ちゃんも心地よさの中に人に対する信頼感を育てるのです。
 地球上の未開な部族の子育て習慣に、生後三ヶ月間は母親と赤ちゃんが2人だけで誰も寄せ付けず、密室に閉じこもるというのがあるそうです。現代人よりも人間の子育てについて理解しているのでしょう。

 子育てしている人に優しい社会を

 子育ては、人間の未来を考えた時、あらゆるものに優先されるべき行為だと思います。最近の不景気は社会にも家庭にも、そして子育てにも犠牲をしいています。
 当然ながら、仕事をしている父母にとって子どもが病気で会社を休むという行為は、職場での居づらさを生じさせます。子どもが病気でも、気持ちの半分はやりかけの、せかされた仕事に向かっています。子どもの病気の時の不安な気持ちを受け入れることが出来るでしょうか。熱が下がったらすぐ保育園へ。これが現実です。小淵さん、ご存じですか?こんな子育てに子どもを愛する余裕など生まれるはずもありません。子どもも親を信じられません。女性も社会参加をしながら、子どもを愛せる時間と精神的余裕を持った子育てが出来る環境を作る。これが、日本が目指すべき本当の子育て支援のはずです。子どもを預かればそれですむという問題ではありません。何か良い具体的な方法は無いものでしょうか。
 最近、NHK のクローズアップ現代で、イギリスでの子育て支援を放送していました。たまたまチャンネルを合わせたときだったので最後の数分間だったのですが、それではペアーになった女性が、二人で一人前の仕事をするというものでした。収入は少なくなりますが、家庭に向ける時間は多くなります。子どもが小さいうちは子育てに時間を取られるのは当たり前、という考えがどんなに不景気な時にも快く受け入れられる社会環境を作る事が、未来を担う素晴らしい子ども達を育てる基礎になるということを新エンゼル・プランでも謳ってほしいと思います。

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