現代小児科事情、そして
    これからの小児科医の役割とは?

 夜は少し冷えますが、春らしい日が続いています。庭の雑草も、少し頭をもたげてきました。兼六園の桜も、八日現在2分咲きとの情報です。
 緑萌え出す季節。山菜取りの季節。「やまうど」の酢味噌和えや、「たらのめ」の天ぷらが目に浮かびます。食欲の秋ではなく、食材の春なのでしょう。
 さて現実に戻ります。総合病院から小児科が無くなっているのをご存知でしょうか。この少子化の時代に小児科はこれからどうなっていくのか、また小児科医はどうあるべきか、今月はこの問題について考えてみたいと思います。

  総合病院の小児科

 総合病院の小児科は、採算がとれないという事情から、廃止されている事をご存知だと思います。松任ではまだありませんが、金沢では二つの総合病院で廃止されました。これはもちろん石川県だけの事情ではなく、日本全国の状態を反映しています。子供が入院治療しても、病院の収入は赤字と言うことがその理由です。点滴にしても処置にしても、成人より人手を要するのに収入が少ない。つまり要する職員の給料がまかなえないのです。日本の医療事情にどこかおかしいところがあると考えざるを得ません。子供が少なくなり、受診する子供が減っていることもそれに拍車をかけています。私立の病院は、援助もなく廃止は仕方ないかもしれませんが、県立や市立の病院も小児科は割に合わない科というのが他科の先生の常識です。小児科の医長は、入院収入を気にしながら診療しているのです。 今年4月、保険点数の改正がありました。それでは病院の小児科が少し収入が増える方向です。しかし、これ以上小児科を減らさないためには、小児科の特殊性を踏まえた正当な収入を設定し、採算がとれるよう早急な改善が必要と考えられます。

 乳幼児医療費援助の行方

 松任市や金沢市では、3歳になるまで、外来で支払ったお金が申請すれば戻ってくるようになっています。これは、子育て真っ盛りの風邪を引きやすい子供を持つ若い親にとって大変助かる制度だと思います。出来れば、小学校に入るまで、将来は、中学に入るまでと延長してもらいたい制度です。
 しかし、最近の小児科医全国インターネット会話会の情報では、財政事情から援助を打ち切る市町村が出てきているという話が耳に入って来ています。「採算がとれないから打ち切る。」・・・制度の重要性よりも採算が優先されています。総合病院の小児科と同じ事が行われようとしています。

「未来を担う子供達が、人類の明日を決めるのです。」(良い言葉だ!)
「子供達を守れない社会は、明日を捨てたも同然です。・・当然です。
          サブー」(更に深い言葉だ!)  作:武藤一彦

 時代に逆行することなく、何が今大事なのかを考え有効に予算を使ってほしいと思います。

 これからの小児科医

 医学部を卒業し、小児科医になりたいという研修医が少なくなっています。やはりここでも採算性が重要と学生は割り切っているようです。つまり、小児科は儲からないから内科へ、外科へ、整形へということなのでしょう。私の体験では小児科医ほど素晴らしい科はないと思っています。働きの割に、楽にならないのは事実かもしれません。しかし、内科や外科や整形のように専門がはっきり分かれてしまうと人間の身体の一部分しか診れませんが、小児科は心を含めて全身を総合的に診る事が出来ます。さらに、その子供が年々大きくなって将来は総理大臣になるかもしれないのです。つまり夢のある科なのです。これほど楽しい科はありません。
 そして、これからの小児科医は病気だけではなく、その親御さんの子育てを支援していく役割も担わなくてはなりません。これまでも外来で育児の問題を相談される機会は多かったのですが、本格的な参入が必要になってきました。
 核家族が一般的な現在、子供への虐待や育児放棄が問題になっています。景気も悪く生活にも追われています。子育てが初めての親が子育てに迷うのは当たりまえの事です。そこでお祖父ちゃんやお祖母ちゃんがやっていた子育て知恵袋的な役割を、誰かが担わないといけません。隣の叔父さん、叔母さん、そして子育て先輩のお母さんにまじって、小児科医も的確なアドバイスを求められる時代なのです。・・・早速ですが、迷うことがありましたらどうぞお聞き下さい。

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