「大阪レポート」より

 暑いとも言える日々が続いています。それにしても今年のゴールデンウィーク程、暑い事件が連続した年は無かったと思います。問題の17歳。小児科医としては、幼児期からの悪いことの積み重ねが事件を招いたように感じます。事件以来、少年法の問題が議論されているようですが、法律を厳しくすれば解決するという問題ではありません。子供が産まれて、親と出会い、日々の生活の中から17年の歳月を経て育ってきた悲劇だと思います。今こそ、子育ての基本から取り組むべき問題なのです。
 「大阪レポート」という現代の子育て問題を追求した大がかりな調査があります。それをご紹介しながら、我々は今何をなすべきかを考えてみたいと思います。

 大阪レポートとは

 「大阪レポート」は、昭和55年の1年間に大阪府下の一市に生まれた全児約2000名について行われました。時期は生後4ヶ月、7ヶ月、1歳6ヶ月、3歳6ヶ月、小学校入学時と計6時点においてアンケートや健診を併用して調べられています。このような何年にも渡る子育て調査は、世界でも類を見ないとの事です。

 調査の結果より

「大阪レポート」を分かりやすく解説した本を読みました。
 
      
「育児不安を越えて」
         原田正文著・朱鷺書房

 この本を読んでいただけば、問題点を良く理解していただけると思いますが、内容からいくつかの興味ある報告をお伝えします。
◆4ヶ月健診にて
「手にものを持たせたことがありますか」とか「日光浴をさせたことがありますか」「赤ちゃんをうつ伏せにしたことがありますか」など、赤ちゃんとお母さんの早期の関わりと精神的発達との関係を見たそうです。著者はそんな早期からの関わりと発達が関係しているとは考えなかったようですが、以外にも「ほとんど毎日」手にものを持たせていると答えたお母さんの子どもは身体的発達、精神的発達ともにが良好だったそうです。私もビックリしました。生後1ヶ月から2ヶ月、何となく笑うような笑わないような微妙な時期ですが、親に余裕があればあやしたり、笑いかけたり、ほほずりしたり、天使のような我が子をずっと見守っていたいという気持ちが湧いてくるのが自然です。3、4ヶ月になった赤ちゃんの笑顔は一日の疲れを忘れさせてくれるでしょう。おててを開いて握ろうとするのもこの時期です。おしゃぶりを握らせると上手にニギニギ。時には機嫌が悪いこともあります。夜泣きで、安眠できないことがあるかもしれません。でも昼間の笑顔がその大変さを癒してくれるでしょう。
◆11ヶ月健診にて
 「お母さんは赤ちゃんの世話をしたり、遊ぶとき話しかけますか」という質問に対して、いつも話しかけるお母さんの子どもは11ヶ月時点での言語や社会性の発達が良好という結果でした。
 著者は、同窓会に参加して、「学校での勉強の出来不出来は生きることにはあまり関係ないなー」と実感したそうです。人間にとって一番大事な能力は、「人とまじわる能力」と述べられていますが、私も同感です。


   「人とまじわる能力」を伸ばす子育てを!
         (勉強が出来る出来ないに関わらず)

1)育児の手本がある母親の子どもは発達がよい
2)母親の近所の話し相手が多いほど子どもの発達がよい
3)子どもが一緒に遊ぶ友達が多いほど、発達がよい
4)食事のとき、手づかみででも自分で食べられるようにしている母親   (11ヶ月児健診)の子どもは発達がよい
5)食事のとき「特に気をつけている」として、「食べる楽しみ」をあげ  た母親の子どもは発達がよい
6)天気のいい日には「よく外で」遊ばせている母親の子どもは発達がよ  い
7)歩行器の使用は子どもの発達に悪い
8)子どもによく話しかける母親の子どもは発達がよい
9)母親のかかわり時間の度合が多いほど、子どもの発達はよい
10)子どもの欲求が理解できる母親ほど、子どもの発達がよい
11)母親の育児不安が少ないほど、子どもの発達はよい
12)母親の「イライラ」や「疲れ」などの精神的ストレスは子どもの発達  に悪い
13)父親の育児への参加・協力は子どもの発達によい
14)体罰は子どもの発達に悪い
15)出産以前の子どもとの接触経験や育児経験がある母親の子どもは発達  がよい


これがすべてうまくいったら素晴らしい大人になれるはずです。現実には「あー、難しいなー」と言うのが本音でしょう。しかし、17歳の悲劇を生まないためには、母親、父親が我が子を自信を持って育てられる社会環境に少しずつでも変えていく必要に迫られているのだと思います。

      「育児不安を越えて」を読んでみてね


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