小児喘息の最新情報

 残暑が厳しいですが、食欲の秋までもう少しです。堪え忍びましょう。ところが秋は喘息の季節でもあります。ダニも増えるし、気圧の変化も激しい。敏感な肺にとっては、受難の季節です。
 さて今月のマンスリーニュースは、9月10日の喘息デーに講演する機会を与えられたのをきっかけに、そのエッセンス(要点)をまとめてみました。

 最新情報?

 講演の演題は「小児喘息の最新情報」と、患者さんの気をそそる内容なのですが、ちょっと考えてしまいます。喘息治療の考え方がこの10年位の間に少しずつ変わってきたことは事実です。しかし、最新とは言えないかもしれません。私も小児喘息に25年間関わってきましたが、現在、初めの頃多かった長期入院(施設入院療法)を必要とするような子供たちは確実に減ってきました。私が森本にある医王病院で、重症喘息児の長期入院療法をやっていた頃は、「喘息にうち勝つんだ。ガンバレ、ガンバレー。」という叱咤激励が主体でした。

 喘息の本体は炎症!

 そのうちに喘息の本体(気管の炎症)が明らかになるにつれて、喘息を腹式呼吸で治すのではなく、発作が出ないように飲み薬や吸入で予防する方が良いことが分かってきました。つまり発作の繰り返しが、気管の炎症を更に悪くするのです。炎症が強まれば、また発作が出やすくなります。まさに悪循環です。発作を確実に止めること。これが大事だったのです。目指すは「発作ゼロレベル作戦」です。小児科で、この発作予防に一番効果的だったのが吸入薬ディソディウムクロモグリケート=商品名「インタール」と内服薬テオフィリン=商品名テオドールです。インタールだけでは、発作の多い(いつも気管が狭まっている)重症児では肺の奥まで薬が入らないということで、気管支を拡げる(気管支拡張剤)ベネトリンやメプチンを一緒に吸入しました。金大(金沢大学)では、先輩の先生の指導のもとインタールの吸入液が発売される前から、その粉薬を生理食塩水に溶かしてベネトリンを入れて吸入していました。「うーん」これは効くなと思いました。また、テオフィリンは、発作を止めるだけではなく、気管の炎症を抑える効果もあることが分かってきました。

 小児喘息は治るのか?

 「小児喘息は治るのか?」・・・この質問は、喘息児にとっても、またその親にとっても最も気のかかるところです。喘息では、「治癒」という言葉を使いません。「寛解」という言葉を使います。「寛解」とは発作が殆ど出つまりなにが言いたいかなくなって症状がゆるんだ状態です。たとえて言えば、海面上に現れていた氷山が、海面の下に沈んだのです。海面の下にどれくらい大きな氷塊が隠れているのか。それが問題です。小児期に出来るだけ発作の出る機会を減らして「寛解」になれば、海面下の氷塊は小さいに違いありません。大人になって、ほこりの多い職場やストレスの多い職場に配置されたとしても、強い発作に見舞われることも少ないと信じます。

 心と身体の環境整備

 喘息発作を予防することが、最近の喘息治療の方向であることを強調しました。薬の使い方も大事です。しかし、それだけが治療のすべてではありません。喘息の一筋縄ではいかないところです。かと言ってそんなに恐れないでください。ここでは心と身体の環境整備についてお話しします。喘息があるからと言って、あれも出来ないこれも出来ないでは困ります。子供の生活は、楽しいことであふれていて生きる力を養えます。もうすでに喘息という苦しさを持っているのです。これ以上苦しめないでください。もし喘息中心に生活が回転しているご家庭があったら、東京ディズニーランドへ行きましょう。親も子も、みんな子供に返って楽しんでください。人間は苦しむために生まれてきたのでしょうか。いいえ、違うはずです。生活を楽しみながら、喘息ともつき合ってください。最後に、ダニを減らすことも大事だにー。(寒うー)

 つまりなにが言いたいか

 講演も最終に近づきました。結論を言わなければなりません。・・・喘息児は好きで喘息になったのではありません。また悪いことに、喘息は夜起こる病気です。ここが腎炎と違うところです。そして慢性に経過する病気です。重症であればあるほど、夜寝られないお母さんの顔が醜くなり、子供に拒否的になるのも仕方ありません。だからといってお母さんが悪い(母源病)のではないのです。病気が悪いのです。喘息に、家族そろって立ち向かい、上手につき合ってください。将来、たとえ喘息が残ったとしても、人の痛みが分かる素晴らしい社会人を作ることになるのです。

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