石川ましんゼロ作戦

 14日、台風7号が沖縄から日本を縦断しようとねらっています。太平洋沿岸を北上した台風6号の威力はすさまじく、全国で死者やたくさんの負傷者を出しました。今年の台風は、いつもより早めに日本接近を試みています。北陸は台風被害が少ない方ですが、梅雨と重なって6号による道路決壊が報道されていました。被害が少ないよう願うばかりです。
 さて、今月のマンスリーニュースは6月16日、石川県小児科医会で立ち上げた「石川ましんゼロ作戦」についてお話したいと思います。

 麻疹(はしか)とは?

 さて、「はしか」とはどんな病気でしょうか。ここでおさらいをしてみましょう。
 昔、日本では「命定め」の病気といわれ、フランスでは、「子どもの自慢は、はしかが済んでから」と言われました。ワクチンの無い時代にはそれほど怖い病気だったのです。
 はしかウィルスが感染すると、10〜12日の潜伏期を経て、3〜4日間の咳、熱、鼻水、結膜炎を伴うカタル期、そして発疹期(4〜5日間)へと二峰性の発熱は一週間程続きます。そばで診ていると大変重症な経過です。その後回復期(3〜4日間)へと進み治っていきます。発疹が出る前の診断の決め手が、コプリック斑という口内の頬の部分に出来る白い斑点です。見慣れないと診断に迷うこともありますが、一回「これだ!」という経験があると、診断し易くなります。時には迷いますが、ましんワクチンが接種してないということになれば更に確定的です。
 ワクチンの出来る前は、一度はかかる病気だから仕方ないと言うのが普通でした。その頃は(ほんの30年前)日本国内で年間100〜200人の死亡者が出ていたのです。その多くは幼い子どもたちでした。死亡原因は主に脳炎や脳症、肺炎です。死亡しない時でも、知能障害などの後遺症を残すこともまれではありません。また、特殊な後遺症として数年から10数年後(平均7年)に、知能障害やけいれん、そして最後には廃人となり死に至る亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という悲惨な病気を引き起こすこともあるのです。

 日本のましんワクチン

 日本で、ましんワクチンが定期接種になってからすでに25年が経過しましたが、ワクチン接種が不十分な為に、毎年大小の流行を繰り返しています。そして、今でも年間数万人がはしかにかかり、八十人程が犠牲になっているのです。ちなみにアメリカ全土のましん発生は、年間80人程と言われます。
 石川県のワクチン状況はどうでしょうか。1才半で、ましんワクチンが済んでいる子どもは平均60%位と思われます。流行が起こらない為には、この数字を95%に上げなければなりません。「石川ましんゼロ作戦」はその為の作戦です。ましんワクチンは、強制ではありません。ワクチンの必要性を親御さんに理解してもらって、すすんで接種を受けてもらうにはどうしたらいいか。その為に小児科医として何が出来るか。
 先日、石川県小児科医会有志が集まって議論を戦わせました。メーリングリストを通じての事前の打ち合わせもしてありました。会議では、幼稚園、保育所、小学校、中学校への働きかけや、市町村役場、保健所、教育委員会への対応、内科のドクターとの連携などたくさんの議論がなされました。
 これは、石川県内だけではなく、日本全国の小児科医を中心としたグループが取り組み始めています。ましん後進国日本の汚名を、是非とも晴らさなければなりません。

 摂取率を上げるには

 どうしたらましんワクチンの摂取率を上げることが出来るでしょうか。子育て中の親御さんが、ましんという病気の重大性を理解して、進んでワクチンを接種する体制はどうしたら出来るのでしょうか。
 私は、一番大事なのは、自分の子どもは自分が守るという一見単純なことのように思います。自分の宝(子宝=かつて子どもは宝でした)は自分で守る・・・これしかありません。子どもへの愛情が深ければ、健診毎の保健婦さんの言葉も耳に残るでしょう。「1才になったら、ましんワクチンを受けましょう。ましんは、怖い病気です。」
 でも、石川県内のすべての地区で、いつでもましんワクチンが接種できる体制が整っているわけではありません。接種する期間が区切られている地区もあります。この場合、生まれた月によって接種が遅れてしまう事もあります。そうなると、愛情の問題だけでは済まされません。役場の愛情も必要です。地区によっては医師の数が足りないということもあります。医師会の愛も必要です。石川県、何処に住んでいても隣町や隣の市で境界無く無料で接種できることが理想です。
 受けたくても受けられない。無料になっていない。日本全国にはこんな地区が、まだたくさん残っているのです。
 子どもを守れるのは親しかいない、親子を守れるのは小児科医しかいないでは困るのです。「国の責任として子どもを守る」という日本の姿勢が問われているのです。

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