抱きしめる、という会話

 毎日配達される新聞は、国内でも国外でも、何と多くの事件が頻発していることでしょう。そんな最中、群馬県前橋市で開催された日本アレルギー学会へ行って来ました。参加は1日だけでしたが、沢山の参加者に紛れて発表や講演を聴いていると、「久しぶりに勉強しているなー」という気持になるから不思議です。でも、たまにはそんな新鮮な気持ちも大事ですね。
 ところで、行き帰りの飛行機の警戒が厳しくなっているのにはビックリしました。いつテロが起きても不思議はないという状況を身近に感じました。松任にいては分かりませんが、日本もねらわれているのです。帰りの登乗時、検知器に引っかかってしまいました。まず靴を脱いで、ポケットの物を全部出して・・財布も小銭入れも鍵も、引っかかりそうな物は全部カゴに入れたのに・・と思いながらジャケットのポケットを探るとティシューと一緒に「のど飴」の袋を見つけました。何とそれが原因だったのです。どうしてか分かりますか。その袋、アルミ製でした。係員に手渡して、再度おっかなびっくり門をくぐりました。セーフ!私の考えが甘かった(飴ですから)のです。
 さて、今月のマンスリーニュースは、テロと関係ない話題です。

   抱きしめる・・

 最近、「抱きしめる・・」という公共広告機構の新聞広告をよく見ます。

抱きしめる、
という会話。

 子どもの頃に
 抱きしめられた記憶は、
 ひとのこころの、奥のほうの、
 大切な場所にずっと残っていく。

 そうして、その記憶は、優しさや思いやりの大切さを教えてくれたり、 
 ひとりぼっちじゃないんだって思わせてくれたり、
 そこから先は行っちゃいけないよって止めてくれたり、
 死んじゃいたいくらい切ないときに支えてくれたりする。

 子どもをもっと抱きしめてあげてください。
 ちっちゃなこころは、いつも手をのばしています。

 この広告を見るたびに「本当に、そのとうりだなー」とあいづちを打っています。文章と一緒に白黒写真で、母と子が抱き合っている様子が写っています。カラー写真でないのは、記憶の中の情景を表しているのでしょうか。母親の表情が少し深刻に見えるのは、何か心配事の後なのでしょうか。子どもの表情は分かりません。泣いているのでしょうか。それとも幸せそうな笑顔なのでしょうか。心配です。抱き上げている(?)せいもあるでしょうが、身長も大きめです。5、6才から小学校低学年に見えます。

  「ギュー」してあげて

 むとう先生は、お母さんに時々『「ギュー」してあげて』と言うことがあります。子どものこころが不安かなと思わせる症状で最近よく耳にするのは「頻尿」です。「さっきおしっこに行ったのにまたー」・・お母さんの不安な表情が見えるようです。膀胱炎で「頻尿」ということもありますが、おしっこを調べても異常ありません。よくお話を聞いてみると、「そういえばよく怒るかも」とか「下の子どもに手がかかって」という言葉がお母さんの口からポロッと出てきます。お母さんは分かっているのです。「少し怒りすぎたかなー」「話しかけてきても、後でね、ばっかりだったかも」と反省しているのです。子どもにすれば自己主張が出過ぎて「また怒られちゃった」「でも、あれはどうしてもしたかったし」「お母さん、私のこと嫌いになったかなー」「不安だなー」「おしっこ行ってこー」と、こういう事です。
 おしっこに行きたいときは行かせてあげてください。「また行くのー」なんて言わないで、「そう」ぐらいでいいでしょう。手が空いたら、保育園のこと、学校のこと聞いてあげてください。「今日、楽しかった?」「そう、良かったネー」お母さんにすり寄ってきたら、たまには「ギュー」してあげてください。何げない会話と何げない接触が大事なんです。子どもは親の愛を確かめて、また何時もどうりカバンを放り投げて行方不明になるでしょう。そして、いつの間にか「頻尿」は治っています。

  もっと「ギュー」が必要だ

 「抱きしめる、という会話。」
誰が考えたのか知りませんが、この言葉はなかなか複雑です。「抱きしめないと会話が出来ないの?」という事になるからです。前の章でお話しした「頻尿」ぐらいは可愛いものです。もっと重症なこころの不安状態を示しているように感じます。白黒写真のお母さんの表情が深刻なのもそのせいでしょうか。普通の親子が抱き合っているなら、うれしい表情をしているはずです。もしかして長い間別れていた親子の再会の場面とか、家庭の事情でどうしても子どもを好きになれなかった母が、迷いから抜け出して抱きしめる事ができたとか・・・テレビドラマの見過ぎかなー。
 自分の子どもを「抱きしめる」という行為が自然に出来ることは、本当に幸せな事だと思います。しかし、人間世界は時に複雑です。夫婦の関係、嫁姑の関係、叔父叔母の関係、その中に生まれ落ちた子どもを取り巻く環境も色々です。母や父から手放しの愛情を受けられないこともあるでしょう。
 また、現在の日本の子育てが、早期保育、延長保育、病児保育と母子の愛情が育つ環境を奪う方向に向かっていることも不安です。子どもへの愛情は、生まれた後に子どもと接触する中で育っていくと思うからです。
 「言葉による会話と、抱きしめるという会話」・・この両者を赤ちゃんの時から十分に満たされて、初めて大地に根の張った信頼のおける愛情深い人間が育つのです。赤ちゃんの時から抱きしめてあげてください。そして愛を伝えてあげてください。子どもは、親に愛されていると感じる時ほど嬉しいことはありません。お父さん、お母さんはどうでした? 私はそうでした。そう言えることは本当に幸せです。親父、お袋、ありがとね。

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