先天性風疹症候群 

    (congenital rubella syndrome=CRS)

 2004年も残すところあとわずかになりました。景気も回復しないまま年を越そうとしていますが、皆さんにとっては、どんな年だったでしょうか。毎日の新聞を見ても、世の中物騒な事ばかり。弱い存在である子ども達がたくさん犠牲になっています。社会(大人たちの世界)の状態がおかしくなっているんでしょうが、来年に「期待しよう」という気持ちも失せてしまいます。
 小児科関係では、少し前進という話題もあります。2006年度から、やっと日本でも麻疹(はしか)+風疹(三日ばしか)の混合ワクチンの2回接種が始まるそうです。麻疹の根絶も悲願ですが、風疹も気を抜いていると、不幸な子ども達を増やしてしまいます。
 そこで今年最後のマンスリーニュースは、「先天性風疹症候群」について勉強しましょう。

  まず風疹について

まず風疹についてお話しします。
 通称:「三日はしか」とも言われます。麻疹の軽いやつという感じでしょうか。でも病気としてはまったく違う病気です。原因となるウィルスは、風疹ウィルスで、鼻や咽頭の分泌物が飛び散る事によって感染します。感染力のある期間は、発疹の出る数日前から5〜7日後までです。潜伏期間は、14日〜21日間です。症状は、発疹、リンパ節腫大、発熱の三大症状です。
 
発疹は、紅色の斑状丘疹で、顔から全身に拡がり、三日間ほどで消えます。発疹の跡は残りません。
 
リンパ節腫脹は、後頭部や耳後部、頸部にみられますが、発疹が出ているときが一番大きく、数週間で縮小していきます。
 
発熱は、一般に軽度で、2〜3日です。時には、熱が無いときもあります。
 感染しても症状がまったく出ないこともあります。これは不顕性感染といいますが、風疹では4人〜2人に1人と言われています。  
 風疹の合併症としては、関節炎や脳炎、血小板減少性紫斑病がよく知られています。特に紫斑病は有名ですが、3000人に1人の割合で発症します。血小板が減ると、身体に出血斑が出てきますが、軽症なことが多く、普通は2週間ほどで回復します。脳炎は4000〜6000人に1人の割合で発症します。症状は、他のウィルス性脳炎と同じように高熱や意識障害ですが、麻疹の脳炎よりは軽症です。しかし、時には死亡例もありますから注意が必要です。
 以上、風疹という病気自体は発疹の出る軽い風邪という印象ですが、このウィルスが、風疹の抗体を持っていない妊娠中の女性に感染すると、その胎児にも感染し、様々な先天異常(先天性白内障、先天性心疾患、難聴、時に知能障害など)の元になるから大変です。これが「先天性風疹症候群」の正体です。

  CRSと風疹ワクチン

 日本のCRS発生の歴史を振り返ってみましょう。今から約40年前(1965年)、返還前の沖縄で400人、日本本土でも風疹大流行の後には毎年CRSの出生があり、1963〜1988年には600人にも昇りました。
 その間、1977年、日本は英国方式を取り入れ、中学生女子を対象とした風疹ワクチン接種を開始しました。しかし、英国同様うまく行かず、1989年から小児に、麻疹+おたふくかぜ+風疹ワクチンを含んだMMRに切り替えました。この混合ワクチンでおたふくかぜワクチンによる髄膜炎が多発したためやむなく中止となりました。1994年からは、風疹ワクチン単味の接種が行われていますが、1995年の摂取率はなんと17%まで落ち込んでしまいました。この原因は、集団接種が個別接種に変わったことや、ワクチンはしたい子どもだけがすればよいなどという一部の間違った報道の影響もあったようです。幸いにして、1993年以後は、大流行もなくなり、CRSの発生も少なくなっています。
 現在、風疹ワクチンの定期接種は、1〜3才で行い(標準的接種年令)、未接種者は、7才半まで(推奨接種年令)には行うよう勧めています。

  なぜ、いまCRSなのか

    今年の先天性風疹症候群の発生が8例に達した。

    うち1例は母親にワクチン接種歴があった。(新聞報道より)

 さて、最近になって風疹に関して色々な問題が出てきています。
 一つは中学生女子から小児に切り替えたときに、中間にいる子ども達が接種洩れになってしまったことです。一応、平成15年度(平成16年3月31日)まで無料で接種出来たのですが、その期間中の摂取率も低く、無料接種期間も過ぎてしまいました。
 二つ目の問題は、以前に風疹ワクチンを受けた患者さんの抗体価が次第に低下してきて、風疹感染を防げなくなっていることです。風疹ワクチンを受け、充分に抗体が出来ていれば、風疹の人と接触して風疹が感染しても症状は抑えられてしまいます。ところが、何年も風疹患者さんに出会うことがないと、充分だった抗体の量も次第に少なくなってしまいます。中学時代に接種したワクチンの効果が充分でない、妊娠可能な女性が増えているのです。運良く妊娠中に風疹にかからなければ問題ないのですが、風疹ウィルスはどこに潜んでいるかわかりません。
 こんな理由から、今年に入って全国で8人のCRSの患者さんが生まれ、そのうちの1人は、母親にワクチン接種歴があったわけです。

  CRSを防ぐために

 CRSの発生をを防ぐためには、妊婦になる可能性のある女性が、風疹抗体を検査し(以前にワクチンが接種してあっても)、抗体が低値だったり、無い時は早急にワクチン接種をすることです。また、妊娠している女性に風疹をうつさないよう、家族や医療関係者の接種も必要です。接種が推奨される人たちのリストをお知らせします。
(1)妊婦の夫、子ども、他の同居家族
(2)定期接種対象の未接種者
(3)定期接種対象者以外で以下の人
 ・十代〜四十代の女性
 ・産褥(産後六〜八週)早期の女性
 ・定期接種を受けていない小学生、中学生、高校生、大学生
 ・職業上感染の危険がある人
  (医療従事者、保育士や教師)
 何だか全員が必要みたいです。夕御飯のおかずを一品減らして、風疹ワクチンを打ちましょう。(当院では1回6000円で接種しています)高額なので、出来ましたら市町村の援助もお願いしたいです。産まれてくる子どもの防げるハンディキャップは、出来る限り少なくしたいですネ。

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