小児救急医療問題(2)

 今年の雪も峠を越えたようです。暖冬と言われながら、予期せぬ大雪に雪国は大きな被害を受けました。
 当地のインフルエンザも峠を越えたようです。ここ1週間で、インフルエンザの報告が急激に減少してきました。しかし、新型インフルエンザに対する恐怖は残っています。発生したときには早急な情報提供と対処が必要です。
 トリノ・オリンピックももうすぐおしまいです。最後近くになって、女子フィギュアーの金メダル獲得という快挙が伝わってきました。荒川静香さん、自信に満ちた本当に素晴らしい演技でした。人間、謙虚な気持ちになると、力が抜けて本当の実力が発揮されるのですね。
 さて今月のマンスリーニュースは、平成16年8月号の「小児救急医療問題」の続編です。おさらいをしながら勉強しましょう。

  小児救急医療の現状

 小児救急医療は、国にとっても、小児科医にとっても、子を持つ親にとっても、もちろん小児自身にとっても大変重要な問題です。一時期、小児救急患者さんが病院の「たらい回し」によって、命を落とされたという報道は、大きな社会問題になりました。その報道が有るたびに医師会も行政もいろいろな方法で小児救急患者さんに対応してきました。また、「熱が出たらすぐ救急」というごとく、少子化と育児情報不足が小児患者さんの早期受診要求に拍車をかけている面も見逃せません。しかし、そのような事情を考慮しても、未だ患者さんの要求を充分満足するものとは成り得ていない状況です。
 また、医療側の問題として、夜間に多数訪れる小児救急患者さんの為に医師が働き過ぎの状態におちいり、悲鳴をあげているという状況も伝わってきます。また逆に、せっかく作った救急医療センターが充分活用されていない場合もあるようです。
 どのような小児救急医療の形が望ましいのか。患者さんの要求と医療側に無理のかからない診療体制が、一致するところで救急医療を再度作り上げていく必要が有るように感じます。

  白山市の小児救急医療

 白山市の小児救急医療についてお話しします。現在、野々市町と白山市の小児科医が、9名で休日午前中の当番医を順番に受け持っています。4月からは、一人新規に開業された先生を含めて10人で対応します。野々市と白山市を含めて一カ所ですから、住所によっては相当遠距離ということもあるかもしれません。また、午前中のみということで、「午後はどうすればいいんだ」というご不満もあるでしょう。 白山市の一小児科医としては、午後は隣の金沢市の当番医や、小児科医のいる公立病院に頼らざるを得ません。「もし午後になって調子が悪かったら、金沢の県立中央病院や金沢医療センターを受診してね」と伝えます。
 子どもが急病になった時に、ハッキリとした受診ルートが伝えられていたら、どんなにか安心できるでしょう。

  乳幼児保健講習会にて

 2月19日、東京の日本医師会館で毎年行われている乳幼児保健講習会に参加してきました。午後のシンポジウムは、「小児救急体制の新たな動き」です。
 4人の先生が、それぞれの地域で行われている小児救急体制についてお話されました。
 最初の先生は、千葉県の印旛群市(総人口:66万人)で行われている「地域小児科医連携型:印旛方式」です。その地域に、一カ所、小児が急病になったときに受診する診療所を作り、そこが午後6時から〇時、〇時から朝まで、更に休日と24時間診療できる体制(一次救急)としました。そこに参加した医師総数は48名で、小児科専門開業医と病院小児科医師、更に一部は小児科をかかげている内科開業医にも協力を依頼しました。また、その地区には4カ所の病院があるので、その急病診療所で手に負えない患者さんは、そちらの四病院が日によって順番に引き受ける(二次救急)わけです。この方式で3年が経過したそうですが、時間外診療の急増もなく、ルートが決まった事による住民の安心感からか、適正な利用が浸透してきているとのことです。
 次の先生は、東京都町田市での取り組みを話されました。町田市は、東京都の西南部に位置する総人口:40万人、小児人口:54000人程の地域です。それまで小児の一次・二次救急の大半を、町田市民病院小児科が、常勤小児科医5名で一手に引き受けてきました。当然、連日の激務が続いていました。それに対して、町田市民病院の近くに準夜急患こどもクリニックを作り、連日午後7時から10時まで診療にあたりました。参加医師は、地区の小児科専門開業医、小児科標榜の内科医、さらに都内病院の応援医師など合わせて70名です。この対応により、市民病院の午後6時から〇時までの救急患者は半減したそうです。しかし、深夜の患者さんは減りませんでした。
 3番目の先生は、広島県での小児救急の現状を話されました。広島県の医療圏が細分されているために、地域によって救急体制の度合いが異なることが問題点とのことでした。政令市である広島市舟入病院では急患センターとして、小児科、内科、耳鼻科、眼科が1年中、24時間体制で診療にあたっています。これを維持するために、開業小児科医が交代で準夜勤務を手伝っています。広島県で最初に行われた、小児救急電話相談のお話もありました。電話救急での患者さんの満足度は、78%です。私も参加していますが、休日の午後6時から11時まで10人ほどの患者さんに対応しています。電話なので大変気を遣います。解放されるとグッと疲れが出ます。数ヶ月に一回なのが救いです。5時間あれば、救急患者さんを相当数診療できます。顔を見ながらの診療の方が気が楽です。現在、広島県では医師だけでなく看護師さんにも参加してもらって連日電話相談をしているそうです。看護師さんが、「これは重症かな」と思ったときに医師が出番ということでしょうか。少し楽かな。
 最後の先生は、鹿児島県からの報告です。鹿屋市という大隅半島にある地区ですが、小児科医が少なく、小児救急患者を、夜間、休日に当番となった内科や外科の医師に見てもらうが、重病が疑われる場合には、地区に一カ所ある小児科医のいる鹿屋医療センターに紹介する。しかし、最近は患者が増えてきており、医師の勉強会や親の啓蒙ビデオなどを作って現在の方式が続けられるよう対応しているそうです。
 白山市は、どんな救急体制が適切なのでしょう。現状で満足ですか。皆さんも考えてください。

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