一度かかったら、二度とかからない?

 北陸もついに梅雨に突入しました。何となくハッキリとしない天気が続きますが、仕方ないですね。18日の日曜日は、曇り空から真夏の太陽が一時ですが、顔を出しました。歩いているだけで汗が出てきました。でも今年はどんな夏になるのでしょう。冷夏か猛暑か。すでに夏風邪の一つであるヘルパンギーナが流行りだしています。他はアデノウィルス、皆さんもよくご存じのプール熱のウィルスですが、時に重症の角結膜炎も起こすことがあるので要注意です。水痘も多いです。夏は虫刺されが多いので、時に水痘か、虫刺されか診断に迷うこともあります。発疹の先端に水が貯まっていれば水痘確定なのですが、身体中見回しても水疱が無いときがあります。そんな時は口の中に発疹があるかを確かめます。口の粘膜に発疹があれば水痘の可能性が大きくなります。なぜなら滅多に口の中まで虫に刺されることは無いからです。納得でしょう。
 さて、今月のマンスリーニュースは、「一度かかったら、二度とかからない?」と題して感染症のお話をしたいと思います。

  終生(しゅうせい=一生)免疫とは

 終生免疫という言葉をご存じですか。例えば、「麻しん=はしか」は、一度かかったら二度とかからない、つまり一生に一度かかれば、それが身体に記憶されて新たに麻しんウィルスと接触しても病気にならないという意味です。それが昔の常識でした。しかし、その常識が疑わしいことが分かってきました。今年の4月からMRワクチン(麻しん・風しん混合)が1才から2才に1回目、小学校入学前の1年間の間に2回目の接種をすることが決められました。1才過ぎたら1回だけ接種していた、麻しん、風しんワクチンが混合されて2回接種することになったんです。なぜでしょうか。一昨年、金沢の高校生から始まった麻しんの流行が、大学生へと拡大し、6000名の大学生に麻しんワクチンを集団接種するという事態が発生しました。新聞にも報道されたのでご存じの方も多いと思います。当然、麻しんワクチンを接種していない学生がかかったことは納得ですが、ワクチンを接種してある学生もかかりました。さらに、ワクチンではなく小さい頃に麻しんの病気にかかった人も少数ですがかかったという調査結果でした。つまり、1才頃に接種したワクチンの抗体は、まわりに麻しんの患者さんがいないと、徐々に下がってきてしまい、その状態で麻しんに接すると病気にかかるという事だったのです。終生免疫とは、まわりに時々患者さんがいて接触することで、ワクチンの抗体も、自然にかかったときの抗体も上昇するためにかからないだけの抗体価が維持されていたのです。

  修飾麻しん

 「修飾麻しん」という言葉があります。これは、麻しんの症状が、典型的でない麻しんの事を言います。修飾とは、「つくろいかざること」ですから様子が理解できると思います。例えば、麻しんの診断で重要な口内粘膜に出来る白い斑点(コプリック斑)が見られない、また、身体に出る発疹も典型的でないなどの特徴を持っています。昔、接種したワクチンの抗体が少なくなって麻しんにかかったときや、自然感染の麻しん抗体がやはり少なくなった状態で、再度麻しんにかかると典型的な症状が出ません。つまり、修飾麻しんの状態を呈するのです。これは、困りますね。典型的でないので診断が遅れます。診断が遅れれば、患者さんを隔離する対応も遅れます。そうなれば他の人に感染する機会も増えてしまいます。こんな時はインターネットを介した小児科メーリングリストによる感染症情報がとても役に立ちます。「どこどこの保育所で、流行りだしたよ」という情報が流れると、その近くの小児科医院は警戒警報です。その保育所に通っていると分かれば、熱だけでも隔離の部屋に入ってもらいます。少しでも犠牲者を減らす対応が必要です。

  「風しん」や「おたふくかぜ」「水痘」は?

 「風しん」はどうでしょうか。「風しん」は妊娠初期に母親がかかると赤ちゃんの心臓や脳に異常を起こす大変危険な感染症です。日本では、1977年から中学女子だけにワクチンを接種していたのですが、1989年からは、MMR(麻しん+おたふく+風しん)ワクチンとして継続されました。しかし、このワクチンで髄膜炎が多く観察されたため中断され、1995年4月からは、1才過ぎの全幼児を対象に接種されていました。しかし、1回だけだったので、抗体の下がってきた母親がかかって赤ちゃんに異常が出る報告が相次ぎました。そこで今回、MRワクチンとしてやっと2回接種されることになりました。少し安心です。
 「おたふくかぜ」は、世界の傾向としてMMRワクチンとして2回接種している場合が多いです。日本も早くMMRを復活させてもらいたいです。「おたふくかぜ」で問題になる合併症は、難聴です。1000人から1500人に一人が起こすと言われ、以前考えられていたよりも多いです。普通は片方の難聴が多いのですが、まれには両耳とも聞こえなくなることがあります。そうなれば、その日から聾唖者(耳が聞こえないために、言葉が話せない)ということになり、大変な悲劇です。
 「水痘」はどうでしょう。水疱を伴った発疹の出る感染症ですが、発疹の跡が残るくらいで、成長するに連れてその跡も気にならなくなるのが普通です。時に、発疹に感染を起こして皮膚が深めに傷つくと成人まで跡が残ります。まれな合併症として、脳炎や肺炎がありますが、どちらも重症化して命に関わることもあります。
 風邪でさえ、時には重症化して命に関わることがあるのですから油断は出来ませんが、ワクチンがあって、感染を予防したり軽く済ませることが出来るならば国民全部がその恩恵を受けられるようにするのが今後の行政の目標でしょう。2回接種になったのも世界の先進国の対応から見れば10年は遅れています。さらに少子化の子ども達の犠牲を少しでも減らす為に、「B型肝炎ワクチン」「インフルエンザ菌ワクチン」「ポリオ不活化ワクチン」「肺炎球菌ワクチン」など、先進国に比べて未だに遅れているワクチン行政の充実を早急にお願い致します。

     
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