Hib〈ヒブ〉ワクチンをご存じですか

 皆さん、北陸の短い秋を楽しんでいますか。運動会や遠足も楽しいですね。子どもの頃の思い出はいつまでも残るものです。少し調子が悪くても、親としては、出来るだけ参加させてあげたいという気持ちは分かります。熱が出ていても翌朝元気だと、「よし運動会へ参加しよう」と言うことになり、帰ってきたらグッタリして熱を測ったら39度と言うこともありますね。それも思い出ですが、あまり無理をし過ぎるのも問題です。参加出来なかったけど、家族みんなでいつもは食べられないごちそうを食べたり、手厚い看病を受けるのも、いつまでも残る貴重な思い出に違いありません。
 さて、今月のマンスリーニュースは、「Hibワクチン」について勉強しましょう。

  久しぶりの遭遇

 最近、インフルエンザ菌による化膿性髄膜炎の患者さんを経験しました。診断が遅れれば後遺症や命にかかわるこの病気をいかに早く診断し、総合病院へ紹介するかが大変重要です。しかし、久しぶりの遭遇に少し油断をしていて、後悔の残る対応をしてしまったことを白状します。未だ、ワクチン導入の遅れている日本においては、この病気を常に頭に入れて診察しなければならないということを実感しました。
 前日昼頃から発熱し、その夜に公立病院の時間外を受診しました。その時は「風邪でしょう」という診断でした。翌日、発熱が続くため昼頃に当院を受診しました。姉のついでに診察を申し出た母親は、「寝てばかりいるんです」という重大なコメントを告げていました。にもかかわらず、診察中眠りから覚め、大きな眼を見開いた1才4か月の患児に、少し虚ろな眼だなと思いながらも、「夜寝られなかったせいかな」という勝手な理由をつけ、軽く聞き流してしまいました。2日後、その付けが廻ってきました。母親が姉を連れて再診された時、弟があの日の深夜意識がおかしくなり救急車で再び公立病院を受診し、インフルエンザ菌による化膿性髄膜炎の診断を受け治療中であると、話されました。私を非難するでもなく、早く診断が付いて良かったという話しぶりを虚ろに聴きながら、12時間遅れの診断に久しぶりに背筋が寒くなる思いと「Hibワクチンをしていたらなー」という思いに見舞われました。小児科医として経験も重ね、自分なりに見逃すことは無いと信じていたのに・・・。

  Hib〈ヒブ〉ってなに?

 Hib〈ヒブ〉とは、インフルエンザ菌b型のことです。インフルエンザという名前が付いていますが、毎年冬に流行るインフルエンザウィルスとはまったく関係のない細菌です。たまたま、ウィルスの存在が知られていない1890年に、インフルエンザにかかった人の痰から見つかった細菌だったので、この名前が付けられ現在もインフルエンザ菌と呼ばれているのです。Hibは、子どもの鼻の奥やノドにすんでいます。時に髄膜炎や喉頭蓋炎を起こします。今回経験したのは、脳や脊髄に細菌が入り込んで起こる髄膜炎ですが、髄膜炎の内の2/3は、Hibによって起こります。日本では毎年5才以下の子ども達約600人がかかり、その内の半数以上が1才以下に集中しています。問題は、かかった子どもの15〜20%に後遺症(難聴やけいれん)が残り、5%は死亡するという事実です。つまり、20人に1人が死亡するのです。最近、この髄膜炎が増加していると言われています。また、抗生物質に効きにくいHibが増えているそうです。
喉頭蓋炎も怖い病気です。髄膜炎よりもまれですが、物を飲み込むときに気管にフタをする喉頭蓋がHib感染により急激に腫れて息が吸えなくなり、数時間で窒息してしまう病気です。これもHibワクチン接種で防げます。

  Hibワクチンの早期導入を

 髄膜炎で入院中の患児は、意識の回復も早く見舞った私に笑顔を返してくれました。新米小児科医の頃、インフルエンザ菌による髄膜炎で早期に診断され経過も良く元気に退院した男児に、数年後難聴が残ったことを後で知りました。
 インフルエンザ菌b型(Hib:ヒブ)による髄膜炎、診断が難しく死亡や後遺症を残す病気ですが、1990年代からHibワクチンが欧米を中心に導入され、1998年WHOは乳児への定期接種を推奨する声明を出しました。ワクチンを施行している100か国以上の世界の国々では、インフルエンザ菌髄膜炎は過去の病気なのです。予防できるものはまず予防することが、救急医療対策の第一歩であり、かつ少子化対策です。早急にHibワクチンを導入すべきです。日本が本当に子どもを大事にする国になったとき、小児救急医療も少子化対策も本物になったと言えるでしょう。

お父さん、お母さん、子ども達のために叫んでください。
 
  
「何で、Hibワクチンをせんがー?
     アジアでせんのは、日本と北朝鮮だけやがいやー」




  上の地図とグラフは外来小児科学会のパンフレットから引用させて頂きました。

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