学校医は学校へ行こう!

 例年にない暖冬が終わろうとしています。雪景色が見られたのは、ほんの数日でした。雪景色を見て何となく安心したのは何故なんでしょう。「大雪はいやだ。」と常日ごろ言っているのに、全く降らないと心配になる。「そこまで急に変わらなくてもいいんじゃないの。」なんて我が儘を言いたくなる。人間、いや私だけかもしれないけど何て勝手なんでしょう。
 インフルエンザも遅く流行しだして、今まさにピークを過ぎようとしています。明かな脳症で死亡したという話は、石川県内では聞いていません。このまま犠牲者もなく終わってくれることを願いたいです。当院でも、高熱時に変なことを言い出したと緊急受診された子どもさんがいましたが、すぐ正常に戻りました。高熱で夜驚症(やきょうしょう)の様な状態だったようです。
 さて、今月のマンスリー・ニュースは「学校医は学校へ行こう!」というお話をしたいと思います。

  学校医の役割

 私たちが小学校頃(昭和30年代)、学校医の先生が大きな診察カバンを持って学校に来られ、保健室で一人一人順番に健診を受けたことを思い出します。内科健診、耳鼻科健診、眼科検診があったように思います。集団の予防接種も学校医の先生の仕事でした。あの時以来変わりなく連綿と、ほとんど何の変更もなく続いてきました。
 平成18年3月、学校医の役割を検討する委員会から、日本医師会に「学校医の果たすべき重要な役割は児童生徒の健康管理の充実に加えて、学校を場にした健康教育への積極的な参加である」という意見が伝えられました。これまで学校医は、健診(入学時や定期)で学校を訪問したり、インフルエンザワクチンが児童に無料で接種されていた頃は、学校で集団接種の為に訪問することがありました。私たちもそれだけで学校医の義務を果たしたような気がしていました。ところが学校保健法という法律には、仕事として健康相談を行うことが明記されています。また、昭和33年6月にでた文部省体育局長の通達では、健康相談の対象が、慢性の病気を持っている児童だけではなく、自分から心身の異常に気がついて健康相談したいと思った児童や保護者が子どもの病気に気づいて相談したいと思った児童も含まれています。そうなんです。学校医の役割は、本来健診やワクチン接種だけではなく、子ども達自身や親が子どもの病気が心配だと思われた時に、相談にのってあげることも重要な仕事だったのです。学校医の先生も、小児科、内科、外科、耳鼻科、眼科、整形外科、産婦人科などいろいろですから、その先生の専門を生かした相談が幅広く出来る訳です。でもこれまでやってこなかったので、急に相談にのれと言われても難しいですね。
 昨年9月、「学校医は学校へ行こう!」という本が医歯薬出版社から出版されました(2800円)。これには、たくさんの先生方の学校医としての多彩な経験が掲載されています。学校医必携の本です。学校医の先生は、それをヒントにしながらどのように関わったらよいかを自分なりにお考え下さい。

  学校医は学校へ行こう!

 「学校医は学校へ行こう!」と言われても・・・何にも用事がないのに行きづらいなと言うのが本当の所です。学校で行き慣れた場所と言えば、そうです、保健室です。中には校長とは同級生だから顔なじみという場合もあるかも知れません。普通、養護の先生とは顔を合わせることも多いですから行きやすいですね。先ずは保健室へ行ってみましょう。行く途中で、子ども達と顔を合わせると「○○先生だ!」「先生、どうしたん」と聞かれるでしょう。そんな時は「ちょっとね」と応えましょう。何回か訪問するうちに子ども達の方から先に「こんにちは」と声をかけてくれるでしょう。さて、息を整えてノックをして、保健室に入りましょう。養護教諭も忙しいですから、最初は「何の用事なのかな」といぶかしく思い、少し顔を曇らせるかもしれませんが、アポ無し訪問なんですから仕方ありません。


「インフルエンザはどうですか」
「先日は、インフルエンザの学級閉鎖についてのアドバイスを有り難うございました」
「いやいや、ちょっと近くまで来たもんで心配になって」
「一日だけ休校にしました。でもあまり効果は無かったようで」
「やっぱり、三日間の学級閉鎖は難しいですね」


 雑談をかわしながらの数分間ですがとても大事な交流です。この時、心配なことがあると何か相談されるかもしれません。先生方のアンケート結果でも、学校医が児童の体や心の病気についてもっと関わってくれることを望んでいる結果でした。先生方は、学校医との交流を心待ちにしているのです。先生方が気軽に相談できる関係を作ることは、これからの学校医活動にとても大切なことです。

  初めての健康相談

 昨年7月、私が学校医を務める小学校児童全員に初めて「学校医のむとう先生に相談したいことはありませんか?」という相談募集をしてみました。約2割の児童から相談希望の返事をもらいました。多かったのは1年生と3年生でした。相談内容は、身体のこと、友だちのこと、スポーツのことなどです。その後、約束に従って、昼休みの30分を使って保健室を区切って場所を作り、一日平均3人で週に数回の「すこやか相談」を開始しました。時には、話すことが溜まっていて一人で30分を使ってしまうこともありました。お昼の保健室は、カーテンで区切ってあっても子ども達でごった返しています。時には、カーテンの下から顔を出して「なにしとるん」と声がかかります。でも相談の児童も気軽にお話出来たようです。あるクラスは、相談者が多かったのですが、友だちのことや自分の身体のことで悩んでいました。言い争いも多いようです。友だちの関係がうまく行ってない様子が浮かんできました。どのクラスでも少しはあるでしょうが、こじれてくると、関係がないと思う子でもその様子を見て心を痛めているのです。
 勝手に名前を付けた「すこやか相談」は、延べ24日間を要して無事終了しました。小さな心で悩みを抱えている小学生のお話を聞けて良かったです。お話を聞くだけで何も出来ませんが、私に話したことで子ども達の心に少しは安らぎが生まれたのではと思います。
 未来を担う子ども達を育む学校は、みんなで支えあう時代になっています。一人でも多くの大人が子ども達と関わることが大事です。学校医も親御さんとともにその一翼を担いたいと思います。

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