日本脳炎ワクチンは接種した方がいいの?

7月も23日になりました。北陸はまだ梅雨が明けていませんが、例年より明けるのが遅いですね。天気予報では、来週も曇りの日が多いとのことです。学校はすでに夏休みですが、プールの水もまだ冷たいでしょう。「速く来い来い真夏の太陽!」という気分です。やっぱり夏は暑い方が自然です。子どもの頃の思い出に出てくるギラギラに輝く太陽が懐かしい。
 ところで、今度の日曜日は参議院選挙です。棄権はしないで、必ず参加しましょう。貴重な一票に、日頃の思いを込めて投票しましょう。一票一票の集まりが社会の状況を少しずつ変えていく力になるのだと思います。子ども達みんなが、「生まれて来て良かった」という、弱い者が守られる世の中に変えていきたいですね。
 さて今月のマンスリーニュースは、「日本脳炎ワクチンは接種した方がいいの?」という疑問について勉強しましょう。


  
日本脳炎という病気

 日本脳炎という病気は、どんな病気なのでしょうか。先ずはそれから勉強しましょう。
日本脳炎ウィルスの感染によっておこる、主に脳や脊髄などに障害をおこす病気です。人から人に感染することはなく、感受性のある脊椎動物、特に家畜ブタなどの動物の体内で大量のウィルスが増殖し血液中に出現します。そのウィルスをコガタアカイエカなどの蚊が吸って、その蚊が人を刺すことによって感染します。
 日本脳炎だからと言って日本だけにある病気ではなく、東南アジアや中国、韓国、インド、フィリピン、ロシア、オーストラリアなどで毎年1万人以上が感染している病気です。
 ウィルス感染した蚊に刺されてから6日〜16日くらいの潜伏期間を経て発病します。初めは頭痛、発熱、だるいなど、また乳幼児では嘔吐や下痢などの夏風邪の症状だけで終わってしまうことも多いようです。また不顕性感染と言って症状が全く出ない場合もあります。しかし、100人〜1000人に一人は、数日間の高熱、頭痛、嘔吐などで発病し、引き続き急激に光への過敏症、意識障害、痙攣へと続く急性脳炎を起こし、死亡する場合もあります。大多数の人は、無症状に終わるのですが、脳炎を起こした場合には20〜40%の人が死亡する怖い病気です。特に幼少児や老人は死亡率が高くなっています。たとえ命が助かっても、半数程度の人は重度の後遺症が残ります。
 治療に関して、特効薬はありません。脳炎を起こしてしまったら、脳圧を下げる治療や炎症を抑える治療などの対症療法をしながら見守るより方法はありません。
 予防はワクチンです。しかし、このワクチンが、100万人に1人の副作用である急性散在性脳脊髄炎(ADEM:アデム)の重症例が出たために、日本では禁止ではないのですが、差し控える状況になってしまっていることはご存じの通りです。

  どうして差し控えているの

日本脳炎ワクチンをどうして差し控えているのでしょうか。「おせーて?おせーて?」と言いたくなるのは私だけでは無いと思います。
 平成17年5月に厚生労働省が差し控えるよう伝えた文章を出しています。それをまとめてみると次のようになります。
 
「因果関係は不明なものの、マウスの脳を用いた現在の日本脳炎ワクチンを接種した後に重症ADEMを発症した事例があったことから、より慎重を期するため、定期予防接種としての現行の日本脳炎ワクチン接種の積極的勧奨(かんしょう:すすめ励ますこと)は行わないよう市町村に勧告し、希望する者に対しては、接種を行って差し支えない旨の通知をしたものです。」
 そういう事なのですがご理解頂けたでしょうか。こうなったもう一つの理由は、最近は日本脳炎の発症が少なく経過しているという事情もあるようです。報告によると平成11年から19年4月までの過去9年間に、46例の日本脳炎の報告がありました(添付上図)。そのうち大部分は、九州・沖縄地方(41%)、および中国・四国地方(43%)で発症しており、北海道、東北、甲信越はゼロ、関東地方は1名です。その間の中間地域では、近畿地方で3名、我々の中部地方で3名の報告があります。

  ADEM(アデム)という病気

 ADEMという病気は、ある種のウィルスの感染後、或いはワクチン接種後に、まれに発生する脳神経系の病気です。ワクチン接種後の場合は、普通接種後数日から2週間程度で、発熱、頭痛、けいれん、運動障害などの症状が現れます。ステロイド剤などの治療で多くの患者さんは正常に戻りますが、運動障害や脳波異常などの後遺症が10%程度残ると言われています。
 麻しん、水痘、おたふくかぜ、インフルエンザなどのウィルスやマイコプラズマなどの感染後にも起こると言われています。
 現在の日本脳炎ワクチンは、製造の過程で微量ながらマウスの脳組織成分が混入する可能性があり〔検出限界以下)、この成分がADEMを引き起こす可能性が否定できないとされています。

  結局接種した方がいいのか

 石川県は中間地帯と言えるでしょう。2000年から2006年までのブタの日本脳炎ウィルス感染状況を調べた報告では、2001年、2002年、2004年、2005年は抗体保有率が80%を超えています。何故か2006年の調査では抗体保有ブタなしになっています。隣の富山県は毎年、抗体保有ブタが50から80、或いは80%以上を継続しています。(添付下図)
 こう見てみると石川県は、九州や中国地方のように常に感染ブタがいるわけではありませんが、何年か続けて見つかっている事もあり注意が必要と言うことになります。また、ワクチンの副作用で起こる可能性のあるADEMという病気も、起こったとしても殆どの患者さんで正常に戻るということ、東南アジアへ旅行する機会も増えていることなどから病気が起こったときの悲惨さを考えると、ワクチンはどうしても必要です。開発中の新しいワクチンは未だ数年先になるようですし、副作用も現在のワクチンとあまり変わらないとのことですから、現在のワクチンが無くなるまで接種し続けましょう。その間に流行が無いことを願いたいです。

国立感染症研究所 感染症情報センターの図を引用させて頂きました。


    
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