「シッコ(Sicko)」という映画

 9月も20日を過ぎたというのに全国的に暑いです。今年の残暑は半端じゃない。地球が温暖化しているという話は嘘じゃないです。人間が熱中症でドタバタと死ぬ時代が来る前に、炭酸ガスを減らして防ぐ事が出来るんだろうか。心配です。やっぱり次はハイブリッドだな。
 今日(23日)は久しぶりに金沢の繁華街へ出てきました。人と車で一杯でしたが、どうにかかき分けて目指すデパートに着きました。「なんとか崎」とかいう男性(?)の華道展を見るためです。・・・・・うーん、何と華やかな生け花だろう。加賀友禅の着物をあしらい、自らデザインした花瓶に挿した蘭の花。会場を巡っているうちに、眼が慣れてきたのだろうか。不思議とその調和の良さに心が落ちいてきました。
 さて、今月のマンスリーニュースは「シッコ(Sicko)」という映画です。アメリカの医療の現状について考えましょう。

  場末の映画館へ

 9月の最初の連休に用事で東京に行ってきました。ついでに「シッコ」という映画を見ました。医療関係者は必見の映画という事なので、勇んで見に行きました。新聞で上映館を調べてみると2カ所だけです。近いところはどこかなと電話をかけてみると、錦糸町という秋葉原から千葉へ向かって数個目の駅前にあるという。久しぶりに総武線に乗り換えて錦糸町へ。東京から近いからか、休日の午後にしては人の流れが多い。目的の映画館は、駅を出て左に向かい道路を渡るとすぐ向かいのビルにありました。同じ階の隣は「釣りバカ日誌」でした。下のチケット売り場の行列はこちらだったようです。
 医療関係者にとっては話題作でも、みんなが夢中になる映画じゃないから仕方ないか。でもホントはみんなが見た方が良い映画なんだけどな。半券をちぎってもらい、習慣的にポップコーンを買って席に着きました。映画館の広さは、定員200人程だろうか。場末の映画館というたたずまいです。立ち見が出るほど満席かと思っていたら、席はまばらです。50人位だろうか。最近は外国映画より日本映画の興行収入が多いという話を聴いたことがあるけど、社会派の映画はこの程度なんだなと納得しました。それも海の向こうのアメリカの話だからね。

  「シッコ」という映画

 「シッコ」は、英語で書くと「Sicko」です。日本語では「尿」のことだけど、普通は「おしっこ」だよね。「Sick」は、病気のことだけど、Sickにoが付くと「病気」あるいは「精神異常者」の意味になるそうです。
 米国銃社会やイラク戦争などを題材とした問題作で一躍有名になったマイケル・ムーアという話題の監督が作った、アメリカ医療の現状をドキュメンタリーに、恥部をさらしながらも、面白く、冗談を飛ばしながら赤裸々に悲しく描写した映画です。最初は「へー、嘘みたい」と面白いけど、日本もだんだんにそれに近づいている感じがしてきて、良く考えると「怖い映画」になっていきます。
 さて具体的にはどんな映画かって。本当は、映画館で自分の眼で確かめるのが一番だけど、北陸は封切りが
9月29日だから少し解説しましょう。
 初めの映像が大変ショッキングです。足にケガをした、確か保険に入ってない若者が医者にかかるとお金がかかるからと、自分で足の傷を縫い合わせているのです。20数年前、学会でアメリカに行く前に、「アメリカで虫垂炎になると3日間の入院で30万円かかる。」と聞いたことがあったけど、どうしてそんなに高いんだろうと不思議だった。更にその映像に続いて、面白いけど笑えない現実が次から次へと紹介されます。
 事故で手の指を2本切断してしまった大工さん。健康保険を持ってない彼に、医師は「薬指をくっつけるのは、1万2000ドル、中指は6万ドル。どっちにしますか?」大工さんは、安い薬指を選びます。中指は付けられませんでした。大工さんは、マジックの時役に立つとジョークを一言。面白い・・・けど何と悲しいジョークでしょう。
 夫婦共に心臓病とガンを患った。加入しているのは保険料は安いが、治療が低レベルの保険。それでも二人分の保険料を払えず、家を売ることになってしまった。二人は娘夫婦の地下室に引っ越すことになったが、娘夫婦はあまりいい顔はしてくれない。これからどうしたらいいのかと途方に暮れる。
 毎日スーパーマーケットで働く老人にとって、死ぬまで働くのが命を長らえる手段だ。何故なら、スーパーマーケットの福利厚生の一部である保険を失うと、持病の薬代が払えなくなるからだ。健康保険のキープが命のキープになる。
 アメリカにも病院をたらい回しにされて亡くなる子どももいる。日本のように、ベッドが満床や医者がいないからではない。お金が払えない患者は受け入れないからだ。入院していても支払い能力が無くなり、路上に放置された女性も写し出される。
 骨髄移植で命が救われるかもしれない夫を持つ妻。彼の家族の骨髄がマッチ(移植に適合する)することが分かり、喜んだが保険会社がお金をおろしてくれない。待っているうちに夫は死んでしまった。保険会社にとってはいかにして保険料を払わないで済むかが会社の命運を分けるという考えなのです。
 公的医療保険のないアメリカのもつ医療の異常さを、我々国民皆保険制度を持つ日本人が「何ということだ。」と考えられる事は幸せなことなのです。しかし、ここ数年日本でも医療費の削減が急カーブで進んでいます。他の先進国に比較して、国民総生産に対する割合が多くもないのに削られています。国民保険や社会保険が赤字であるという理由で、自己負担の割合も増える一方です。しかし、医療はアメリカの様に資本主義の競争原理で割り切って良い物でしょうか。
 人間の健康は社会の基本的な資産です。子どもと同じ社会の資産なのです。子どもを育てるように人間の健康も、社会全体が責任を持って育てる物であることを再度認識する必要があります。この映画を見て再認識のヒントになることを願いたいです。

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