赤ちゃん登校日

 8月も半ばを過ぎてしまいました。連日猛暑が続いたり、突然大雨が降ったり、天候の変化が激しいです。
心配されていた北京オリンピックもどうにか終焉に近づいています。選手は一生懸命頑張っていますが、成績は期待通りでなかったり、期待以上だったりと悲喜こもごもです。でも4年に一回というのがオリンピック独特の喜びや悲しみを作り出している印象が強いです。4年というのは、短いようで長い、長いようで短い、両方の要素を持ちながら選手のこころや身体の成長に影響を与えているのでしょう。
 「暑い寒いも彼岸まで」という言葉通り、17日の今日、雨も降った影響か、朝は涼しかったです。夏の楽しい思い出を噛みしめながら、宿題頑張りましょうね。
 さて今月のマンスリーニュースは、「赤ちゃん登校日」という、あまり聞いたことのない行事についてお話しましょう。

  赤ちゃんが学校へ

 赤ちゃんが登校するなんて聞いたこと無いですね。だいたい何をしに行くのでしょう。何かの役に立つのでしょうか。「赤ちゃん登校日」と聞くとそんな思いしか湧いてきません。
 現在の日本の学校では、子ども達が先生の言うことを聞かない為の「学級崩壊」や子ども同士のいじめが多いとか、いろいろな問題が噴出して来ています。そんな中に赤ちゃんを連れて行ったら、お母さんだって超心配だし、だいいちそんな怖いところへ連れて行く気にもなりません。それが普通だと思います。       しかし、子ども達が赤ちゃんと接することで子ども達のこころに、優しさや思いやりの気持ちが生まれてくること、さらに赤ちゃんとそのお母さんにも良い影響を与える事が伝えられています。
 石川県でも、初めてこの行事が行われることになりました。参加資格は、生後4ヶ月前後の赤ちゃんとお父さんお母さんです。

 詳しくは、(財)いしかわ子育て支援財団のホームページをご覧下さい。行事のパンフレットや参加申込書をダウンロード出来ます。

         TEL:076-262-1530  FAX:076-262-1540  

         ホームページ:http://www.i-oyacomi.net

  メアリー・ゴードン先生の試み

 カナダの教師であるメアリー・ゴードン先生は、「共感性」という言葉を大事にされています。「共感」を広辞苑で調べてみました。「他人の体験する感情や心的状態、あるいは人の主張などを、自分もまったく同じように感じたり理解したりすること。」と書かれています。やさしく言えば「他の人の気持ちを、自分のもののように感じること」ということですね。人間ならば誰でも持っている感情だと思いますが、それを育てることが、平和な人間社会を実現するために決して欠くことのできない究極の人間の特性であると先生は主張されています。
 『でもそれと「赤ちゃん登校日」とどう関係するの』と思われるでしょう。そうですね。その疑問はもっともです。でも先生は、赤ちゃんがその力を持っていることを見抜かれました。こうして、赤ちゃんの力を借りた、将来親になる子ども達の心に、人への共感性を育てるプログラムを開発し実践されています。
 その方法と効果を先生の書かれた文章からお示しします。(この文章は、
NPO法人未来主催 第3回鳥取発心のふれあいプロジェクト全国集会「子どもたちの心を考える」〜これからの教育、これからのニッポン〜の資料から引用させていただきました。)


  共感性の育つところ

 共感性は家庭から育ってゆきます。なぜなら、子どもにとって、最初で最高の共感性の先生は親だからです。例えば、お父さんが笑いながら名前を呼びかけ、高い高いをすると、赤ちゃんは笑い返し、きゃっきゃっ、と声を上げ、指を伸ばしてお父さんの顔に触れようとします。このように、家庭で、親と感情のやり取りを繰り返すことで、子どもは共感性を根付かせ、育んでゆくのです。ですから、持って生まれた共感性が、どのように成長し開花するかは、親の関わり方に大きく左右されるものです。

 「共感の根」の授業

 私は今まで一教師として、子ども達を、親達を、そして先生達を教えてきました。そして同時に多くのことを学んで来ました。なぜなら良い教師であるためには良い学習者でなくてはならないからです。幸い私はたくさんの良い指導者に恵まれてきましたが、中でも素晴らしい先生は1歳に満たない赤ちゃんでした。
 「共感の根」は10年前に私が作り上げた学習プログラムです。今ではカナダで2000以上の授業が行われ、オーストラリアでも実験的に開始されています。このプログラムの最大の特徴は、赤ちゃんとその親が一ヶ月に一回、一学年間を通して教室を訪問することです。授業は「共感の根」の研修を受けた認定インストラクターによって進められ、生徒である子ども達は、前回の訪問から赤ちゃんがどれだけ大きくなったか、といった身体的な成長や、お母さんに抱っこされたい時、どうやってその気持ちを伝えるか、といった親との関わり方も観察します。赤ちゃんはまた、教室の中に共感性を広げる役目も果たします。何しろ赤ちゃんにとっては「良い生徒」も「難しい生徒」もありませんから、教室にいる子ども達みんなを、理屈なしに無条件で愛することができるのです。赤ちゃんには何の思惑もありませんから、素直に笑顔に笑顔で応えることができるのです。その結果、共感性が子ども達の間に広がってゆくのです。赤ちゃんがいることで、「共感の根」の授業では子ども達の心が優しくほぐれて行きます。その優しい心を通して、人が互いに理解し合う、とはどういうことなのかを子ども達は学習してゆくのです。また赤ちゃんの感情を観察することで子ども達は自分自身の感情を理解し、そして他の人の感情を理解できるようになってゆきます。他の人の立場に立って物事を見ることができるようになるのです。子ども達は感情を言葉で表現することも学びます。研究によると問題が起こった時、女の子は話すことで解決しようとしますが、男の子は行動を起こすことで解決しようとする傾向があるようです。また男の子の感情表現を避けようとする文化もあります。ですが「共感の根」の授業では男の子も女の子も感情を言葉で表現し、間題を言葉で解決する方法を身につけてゆきます。「共感の根」の授業を受けた男子生徒は、受けなかった男子生徒に比べて、言葉による感情表現が豊かである、と研究結果は示しています。また授業の中では子ども達一人一人の感情を非常に大事に汲み取ってゆきます。子ども達は自分の感情を尊重してもらうことで初めて、他の人の気持ちを尊重することができるようになるからです。「共感の根」は希望の学習なのです。人間は一人一人は違っているけれど、みんな同じ糸で結ばれているのだ、と学ぶことによって、子ども達が新しい世界秩序を生みだしてゆく希望があるからです。

 「共感の根」の成果

「共感の根」では実証に基づいて成果を研究しています。短期研究では、参加した子ども達に次のような変化が見られたことが判明しています。

感情表現が豊かになった。
社会性が身についた。
友達との関わりが増えた。
友達との争いが減少した。
いじめなどの攻撃性が減少した。

 長期研究の結果はまだ公表されていませんが、次のような結果が予想されています。

幼年期に学習した倫理観は生涯にわたって影響するので、不正や残酷な行為を許さない大人に育つだろう。
大人になったとき、思いやりのある、平和と平等を愛する毅然(きぜん)とした善良な親になることができるだろう。
親になったとき、人格的、社会的に安定していられるので、その子ども達を愛情豊かに育てられるだろう。
学校は頭脳だけでなく心も育てる場所となり、算数の評価と同じように親切であることや人を助けること、協力することが評価されるようになるだろう。
地域社会は信頼で結ばれ、貧困や疎外、孤立に苦しむ人がいなくなるだろう。
一つ一つの国は、地球という大きな家庭で助け合う家族のようになるだろう。そこでは、子どもを育てることと環境を守ることが最優先されるだろう。

 ここに述べた価値基準や理想は決して新しいものではありません。しかし、子ども達をかけがえの無い、世界を変える力として認識しよう、というのは非常に新しい考えではないでしょうか。私たちは太陽や雨や風の無限の力を社会で活用することに気がつきました。次には、子ども達の心と頭の中に秘められた力を、世界の平和のために開拓してゆかなくてはならないのです。

 結論

 共感性は、教室でも、学校でも、地域でも、国でも、「地球村」でも、社会生活の核となるものです。だからこそ、その核となる共感性が育まれた子ども達は、優しくて強くなれるのです。そして、世界を変える可能性をもった大人へ育つことができるのです。


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