ロタウィルス感染症流行中

 インフルエンザ 型のピークも終わりに近づいていますが、マンスリーニュース3月号出版が4月半ばになってしまいました。最近はマンスリーニュースも遅れ気味です。アラカン世代ってご存じですか。アラフォーは40才前後の事ですが、還暦(60才)前後の事をアラカンと言うそうです。私もこのアラカン世代になったからかなと思っています。記憶力減退と仕事が遅いのが特徴です。「年には勝てないなー」と感じるこの頃ですが、マンスリーニュースは遅れながらも、もう少し頑張ります。
 さて、今月のマンスリー・ニュースは「ロタウィルス感染症」についてお話しすることにしました。「白色便性下痢症」とも言いますが、ただ今外来で大流行中です。滅多に重症になることは無いのですが、強度の脱水や脳炎を合併すると命に関わることもあります。最新の正しい情報を仕入れておきましょう。

 ウィルスの事:
 ロタウィルスは、1983年にオーストラリアの学者によって発見されました。このウィルスは、その抗原の種類によってA〜Gまでの7種類が知られていますが、人に感染するのはA、B、Cの3種類です。時に、B、Cによる流行も報告されていますが、Aが主なロタウィルス感染症の原因です。Aでも遺伝子の型がいろいろあるため、ロタウィルスは繰り返し感染します。
 
ロタウィルス感染症の症状:
 生後6ヶ月から2才までの小児に最も多くみられます。潜伏期間は、2〜4日。
症状は、吐き気、発熱、さらに同時にあるいは遅れて頻回の水様下痢が認められます。便の色が白くなることが多いですが、血液が混じることはありません。症状は、3日〜8日続き、嘔吐と下痢が頻回に同時に出現すれば水分と塩分が身体から大量に失われ、重症の脱水症になり、治療が遅れれば死亡することもあります。また、まれにけいれん(熱が無いのに)や脳炎などを起こすこともあります。
 ロタウィルス感染は、感染を繰り返すたびに症状は軽くなっていきます。また、かかっても軽症か、症状を認めないこともありますが、その割合は新生児や乳児、年長児や成人が高いです。
 
ロタウィルスの感染:
 ロタウィルスは、どのようにして感染するのでしょう。ウィルスは、感染した患者さんの下痢便に大量に出現しています。当然、オムツを変える時にお母さん、お父さんの手に付いて、その手がさわった物にウィルスが付きます。その物に他の人の手がさわって、その手から口へと伝染していきます。下痢をしている赤ちゃんが、自分のお尻をさわって便が付けば、その手でさわったおもちゃにもウィルスが付きます。そのおもちゃを他の赤ちゃんがさわれば、手に付いて、その手をなめれば口からウィルスが感染します。本当にたやすく感染してしまいます。症状が出る前から、すでにウィルスは認められるので、手洗いや消毒をしても流行を止めることは難しいです。ロタウィルス感染症は、どこでも認められますが、実際、すべての子どもが3才までに感染します。重症になりやすい年令は、生後4ヶ月から2才までの子ども達です。また、世話をした成人の2割の人たちが、症状が無くても感染を起こしているといわれます。母乳栄養は、ロタウィルス感染症の重症化をふせぐ作用があると言われます。日本での流行時期は、別名「冬期下痢症」と呼ばれるように、寒い時期が多いです。しかし、最近では地球温暖化の影響か、病気にも季節性がなくなっているという印象です。そんなわけで、現在4月だというのに大流行中です。
 
ロタウィルス感染症の検査:
 ロタウィルス感染症の診断には、便を少量使って出来る迅速診断キットがあります。便が白っぽい時は、ロタウィルスの可能性が大きいですが、絶対とは言えないので、診断キットは便利です。
 
治療:
 インフルエンザのように、効果のある抗ウィルス薬は有りません。脱水を防ぐために、口から、あるいは、点滴で水分と電解質の補給を行います。最近は、座薬による吐き気止めを使うことが多くなっていますが、軽症の場合は、何回か吐くと座薬を使わないでも自然に治まることもあります。嘔吐が止まれば、経口で水分補給が出来ますから点滴は不要です。水分を補給する場合の注意として、嘔吐や下痢が頻回の場合には、身体から塩分が減っているので、塩分を多く含む電解質液(ORS:経口補水液)での補給が大事です。お茶類は、塩分がほとんど入っていませんし、大人用のポカリスエットやアクエアリアスなどの塩分も少なめです。身体の塩分が少ないのに、さらに塩分の少ない水分で補給していると、身体の塩分がさらに足りなくなって元気が出なくなります。下痢や嘔吐の時の水分補給には、少量ずつの水分を時間をかけながら与えるのが原則です。子どもは、ノドが乾いていますから、一度にたくさん飲みたがりますが、それを抑えて少しずつ与えてください。下痢・嘔吐時の経口補水液は市販品で、OS-1(大塚)、アクアライトORS(和光堂)、アクアサーナORS(森永)などがあります。(OS-1は、当院玄関横の自動販売機に用意して有りますので、ご利用下さい。自宅で、砂糖40g、塩3g、湯冷まし1リットル、レモンのしぼり汁少々を混ぜて手作り経口補水液を作ることもできます。右図参照→)
 
感染予防:
 感染力が強く、保育所などで流行しだしたら保育所閉鎖にでもしないと抑えられません。欧米では、2007年頃からワクチンが使用され、効果をあげています。日本では、まだ発売されていませんが、現在、治験中(使用のためのテスト)です。数年後にはワクチンで、ロタウィルス感染症を防ぐ時代が来るでしょう。


    
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