子供を守る      

 今年も残すところあと少しになりました。大人の世界では、不景気の嵐が吹き荒れていますが、子供の世界も、この不景気と無関係ではいられません。なぜなら、お正月の『お年玉』も少し減るのではないでしょうか。
 生活のしわよせは、常に弱いところによります。弱い存在である子供達にとってただ頼りになるのは、自分を生んでくれた親だけです。私たち親としては、子供の期待に応えられるように頑張りたいものです。
 さて今回は、私が受け持った患者さん(Y子ちゃん)のエピソードから、親がいかに自分の子供を強く守っているか。特に母親がいかに子供を強く愛しているかを知ってもらいたいと思います。
再生不良性貧血発病
 Y子ちゃんが3才の時、再生不良性貧血が見つかりました。この病気は、血液を作っている骨髄が傷害されるために血液の重要な成分である、赤血球、白血球、さらに出血を止める役目をもつ血小板などがしだいに減少し、ついには死に至る難病です。初めての子供であるY子ちゃんの発病は、ご両親にとっていかにつらい体験だったか想像出来ると思います。闘病生活が始まりました。長い長い病気との闘いです。私が、最初の主治医からY子ちゃんを引き継いだとき、難病をかかえた子供のご両親にしてはずいぶん明るい感じがしました。闘病生活でなにか悟るところがあったのかもしれません。しかし、ダムが決壊するようにお母さんの涙も見ました。入退院の繰り返し。輸血のための献血者探し。ご両親は、一生懸命でした。いつダメになるかという不安を常に持ちながら、それを打ち消したいという親心がひしひしと伝わってきました。
私はこの子の親です
 ある時、子供に付き添いながら一生懸命おやつを食べていたお母さんに、あまり太りすぎると身体によくないよと、言ったことがありました。するとお母さんは答えました。「Y子ちゃんが、治療でステロイドホルモンを飲んで太っているから、私もふとっているんや。あの親の子供だからふとっているんだなと、おもってくれるしね。」と。この言葉の意味が分かったのは数秒たってからです。薬の副作用で醜いほどにふとった愛娘を、自分もそうなることによって、必死に守っていたのです。深い深い愛でした。
 それから一年程でY子ちゃんは、天に昇りました。その後ご両親は、二人の娘に恵まれ、次女はすでに中学生です。明るいお母さんぶりに、さらに磨きがかかったことは言うまでもありません。
 私が、子育てで悩んだときは、いつもこの時のお母さんの言葉を思い出します。そして結論を出します。子供を最後まで守れるのは親しかいないと。 

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