医療とはサービス業   


 7月1日から当院の診療予約システムが動き出しました。7月に入って来院された方から、新しい診察券と、予約方法のパンフレットをお渡ししています。外来が比較的少ない夏の間に、患者さんにも職員にも慣れてもらえたらと思っています。さっそく利用されている方、まだ利用されていない方と色々ですが、慣れれば大変便利だと思われるはずです。どうぞためらわずに利用してください。その時は、来院予約時間に遅れないようにお願いいたします。
 さて、今年の夏はどうなるのでしょうか。真夏日も適当にあったほうがいいとは思いますが、暑さの犠牲者が少ないことを祈ります。
 今月のマンスリーニュースは、私の関わっている医療という仕事について考えてみたいと思います。堅い話になりそうですが、ちょっと聞いてください。
 私は、医療とは、人間の心と身体にエネルギーを与えるためのサービス業であると考えています。この両者が満足したとき初めて正しい医療が行われたと言っていいでしょう。身体の病気は良くなっても、心が痛手を受けたなら、その医療は不完全だと思います。お風呂へ行って、身体がきれいになっても、風呂の番台のおばさんとケンカをしたら、爽快な気分も一度に吹っ飛んでしまいます。医療に関わる人間(医療人)は、自分が「人間が生きるために必要な心と身体にエネルギーを与える仕事をしているんだ」という認識を常に持つことが重要です。しかし、医療人も人の子です。患者さん同様、色々な悩みを抱えながら医療人として参加しています。たまには、家庭の不満や悩み事が意識せずに患者さんへのエネルギーをはぎ取るきつい言葉になるかもしれません。しかし、それでは医療人として失格でしょう。失格にならない為には、我々も心と身体を常に健康に保って、患者さんを受け入れる余裕を持たなくてはなりません。                                
 医療はサービス業であるとお話しました。サービス業というと何かすべて患者さんの言う通りという感じです。しかし、本当のサービスとは一体何なのでしょうか。
 医療人と患者さん、立場は違いますが、人間であることに変わりはありません。考えることも心の感じ方も同じなのです。自分が患者さんならばという、相手の立場に立ったサービスこそ受け入れてもらえるでしょう。知識の押し売りではなく、患者さんの状況に応じた言葉が本当のサービスなのだと思います。病気についての間違った思い込みがあれば、時に応じて訂正してあげることも相互理解のために大変大事なことです。
 最近インフォームドコンセントという言葉をよく耳にします。その内容を下のに示しました。要は、医療を与えるとか受けるというのではなく、お互いの理解のもとに治療を進めていくということだと思います。現代医学も万能ではありません。時には、求めているものが食い違うこともあります。その時こそ医療人と患者さんの歩み寄りが必要です。インフォームドコンセントは、歩み寄りのための大きな力になるはずです。力及ばず死に至ったとしても、お互いが満足できる終わり方であれば、幾分か本人や周囲の悲しみもやわらぐでしょう。
 現在、日本の医療は、多くの問題を抱えながら改革の嵐の中にいます。医療が経済的に破綻してしまっては元も子もありませんが、どんな医療を目指すのかという基本が抜けてしまっては何にもなりません。高齢化社会に向けて、一人一人が自分の問題として考えてみる必要があるでしょう。

インフォームド・コンセント Informed Consent「十分な説明と同意」という意味。患者に診療の目的や内容を十分に説明し、理解と納得をえて治療をおこなうことをいう。1964年、世界医師会がヘルシンキ宣言で提唱して以来、欧米諸国ではすでにこの考え方にもとずいた医療サービスが定着している。日本でも、90年に日本医師会生命倫理懇談会がインフォームド・コンセントの定義ずけをおこない、積極的に導入することを提言し、そのあり方が本格的に検討されるようになった。具体的には、^「どんな治療をうけているか知りたい」などといった患者にこたえる、_医療技術の進歩にともなってひろがった治療方法の選択肢から、適切な治療法を患者が自発的に選択できるようにする、`患者と医師の信頼関係をきずくことによってさらに治療効果を向上させる、などがもとめられている。
 
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