医療事故を減らすには

 5月の連休も終わりました。安・近・短が最近の主流だそうですが、皆さんはどんな連休を過ごされましたか。久しぶりの家族交流の期間になったでしょうか。「うちはいつも交流しているから大丈夫」と言えれば最高ですが、子供達にも4月からの緊張が貯まってくる時期でもあります。緊張サインを早く見つけて連休中にほぐせれば更に最高ですね。
 さて、今月のマンスリーニュースは、最近特に新聞紙上をにぎわせている医療事故について考えてみたいと思います。

   医療事故は何故起こる

 私の医師としての 25年間を振り返って、裁判に至るような医療事故に出くわさなかったのは本当に幸いだと思います。しかし、放置すれば大事故につながる小さな間違いは、医療関係者であればいくつかは経験しているはずです。ある先生は、医療裁判に 20年を費やし、やっと解放されたと感慨深げに話されました。薬によるショック死に出くわされた先生でしたが、医療従事者は常に危険と隣り合わせです。
 横浜市大病院であった、患者取り違えは、普通なら考えられないことですが、いくつもの
なおざりさが重なって起こったように思います。
なおざりさを言葉で表すと
   「まー、いいか。」
となります。「まー、いいか。」という言葉はどんなときに発する言葉でしょうか。疲れているとき、責任がはっきりしないとき、仕事がつまらないとき、何事にもやる気の無いとき、人生に希望を失ったとき・・・少し大袈裟かもしれませんが、医療事故に限らず、こんな気持ちで仕事をしている時、突然事故は襲ってきます。もちろん避けられない事故もあるでしょうが、事故は最小にとどめなければなりません。

  医療システムの見直しを

 医療とは人間の健康を守る仕事です。この健康には心と身体の両方が含まれています。私は、以前のマンスリーニュースで、医療はサービス業であることを主張しました。更に政治家やお役人は医療人以上のサービス業だと思っていますが如何でしょう。脱線してしまいました。このように事故は突然襲ってきます。
 「医療システムの見直し」・・言葉は簡単ですが、おいそれと出来るものではありません。医療事故とサービス業、そして医療システム、さてどう関係しているのでしょうか。
 医療はサービス業という考えが医療関係者にあれば、当然お客さんに居心地良い状態を提供することを考えるはずです。そこには仕事としての緊張が生まれミスを防ぐ努力が成されるはずです。事故も最小限に食い止められるでしょう。現在の医療システムでそれが可能かというとなかなか難しい気がします。
 「まー、いいか。」発生のもとには、医師を頂点とした医療従事者の力関係が働いているように思います。医師は絶対である、医師の能力は最高であるという医師側の独りよがりを反省する時期に来ているのです。

  本当のPOSを!

 私が、大学を卒業した頃、POS(problem oriented system=問題点志向型システム)という考え方が導入されました。これは、患者を中心に据え、医療従事者がその人を取り囲むようにして問題点を取り上げ、協力して治療していくという当時、画期的な考え方でした。その場においては、医者、看護婦はもちろん、その他の医療従事者が同じ力を持ってその専門性を発揮し意見を言えるシステムでした。それから20年、カルテの書き方はPOSでも、中身はなかなかです。不審に思った治療行為を、「間違っているのでは」と指摘できる医療環境が必要なのです。その為には、医師とともに医療従事者も一生懸命勉強しなくてはなりません。
 テレビで、医療ミス対策として、ミスをしたときにきちんと申告をする制度を取り入れているという病院を紹介していましたが、個人のミスを指摘しても何の解決にもなりません。人間にミスは避けられないという前提に立って、本当のPOSを実践する事が「患者さんが中心である」という医療の原点に立ち返ることであり、かつ医療ミスを最小限にとどめる近道のように思います。

   目次へもどる        次ページへ