99年 春から夏へ

        虫さされ・エンテロウィルス感染症

 暑かったり涼しかったり、気候が不安定な日々が続いています。お腹につく風邪も相変わらずです。(少し減ったかな。)でも、季節は確実に暑い夏に向かって進んでいます。その証拠に、5月の半ば過ぎから夏風邪の仲間に入る手足口病やヘルパンギーナがちらほらと混じってきました。花粉症の季節もそろそろおしまいです。
 4月から保育所に入った赤ちゃんは、風邪の連続パンチをもらっています。高熱にビックリしたり、吐かれたり下痢されたり、お母さんもヘトヘトです。「風邪をひきながら強くなるんだよ。」と言いながら、毎週の発熱に仕事を休みがちなお母さんの困惑した顔が私の言葉(熱を出したときぐらいお母さんと一緒に ネ)をにぶらせます。
「子供風邪休暇制度」でも作ってほしいですね。前置きが長くなってしまいましたが、今月のマンスリーニュースは、春から夏への子供の心配症状シリーズからです。

   虫さされ

 主に手や足、顔などにかゆみの強い発疹が出て受診されます。蚊やノミ、ブヨ、ナンキンムシに刺されたり、毛虫の毒針にふれて腫れることもあります。刺され易い人とそうでない人がいます。虫を引きつけるもの(二酸化炭素、乳酸、卵胞ホルモンなど)が豊富な人が刺されやすいのでしょう。決して人間的魅力とは関係ありません。
 治療は、やや強めのステロイドホルモン入り塗り薬だけで充分ですが、かゆみが強い時は、抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤の飲み薬を使います。まれには、毒素(蜂毒など)に対するアレルギー反応でショックを起こすこともありますから注意が必要です。また、かきこわして化膿すると「とびひ」になり、他の場所に移って行きますから抗生物質の軟膏や飲み薬が必要になることもあります。
 予防は、虫に刺されないようにする事です。その為には、虫の多い場所には行かないことや、刺されない服装をすることも大事です。虫除けスプレーは、かぶれることもありますから注意して使いましょう。

  エンテロウィルス感染症

 難しい名前が出てきましたが、エンテロというのは身体の腸を示す言葉です。腸管系ウィルスと言うことですが、普通「夏かぜ」の原因ウィルスと言われます。その仲間にはコクサッキーA群、B群、エコー、ポリオ、エンテロ、A型肝炎ウィルスなどが含まれます。
 当院も今年4月から感染症の動向を県に報告していますが、4月半ばから吐き気や下痢を伴う風邪〈感染性胃腸炎〉が目立つようになってきました。だらだらと現在も続いています。また5月半ばからは、のどに小さな水疱を伴う〈ヘルパンギーナ〉やお馴染みの〈手足口病〉も混じってきました。例年よりやや早い出現のように思いますが、年によって違うようです。

   手足口病

 手のひら、足の裏、口の中さらにお尻や膝などに小さな丘疹を伴う病気です。原因ウィルスは、コクサッキーやエンテロウィルスです。ウィルスは一種類ではないので、2回以上罹ることもあります。潜伏期は3〜6日です。罹りやすい年代は乳幼児ですが、時に学童や成人にも認めます。発熱は軽く、経過は1週間程です。時に、口内炎のために食事が出来なかったり、全身に発疹が出て診断がつけにくい場合もあります。また、髄膜炎を併発することもあります。
 保育園や学校への出席ですが、ウィルスは長期間消化管から排泄される(鼻、のど、便)ので一時期隔離しても感染は防げません。現在は、伝染性紅斑(りんご病)と同様、学校伝染病の休まなければならない病気からは外されています。
 しかし、一番気になるのは、一昨年マレーシアで大流行した時に死亡者が出たことや、昨年4月に台湾で流行したときには、髄膜炎や脳症が多発し、約50名が死亡したという報道です。(大阪での死亡例や過去の重症例については、昨年7月のマンスリーニュースに載せました)ウィルスも地球上の生物として変化し、かつ進化しています。現代社会の人間環境が、人の免疫力を低下させているという報告もあります。何らかの関連があるのでしょうか。手足口病なんて軽い病気と思っていた常識が覆されることがないよう祈るばかりです。
 風邪は予防が大切です。早寝早起き、快便快食、うがい手洗い・・・
うーん、私は書くのが苦しいなー

  ヘルパンギーナ

 ヘルパンギーナ・・この変わった名前の病気も夏かぜの代表的なものの一つです。ヘルプは、水疱を表し、アンギーナは口峡部の炎症を意味しています。口峡部とは、口がのどに向かってせまくなる部分ですから、口の奥ということです。つまり、口の奥に水疱を伴う夏かぜということになります。最近では、原因となるコクサッキーウィルスで、口の奥だけではなく、ほほの部分や唇の粘膜、また舌や歯肉にも水疱を認めることがわかっています。ですからそれらもヘルパンギーナと呼ぶようになってきました。
 ヘルパンギーナの症状は、突然の高熱です。ことに乳幼児では、40度を超えることもめずらしくありません。流行は春から夏にかけてですが、今年は5月半ば過ぎから増えてきました。5歳以下の幼児では吐き気を伴うこともあります。年長児では頭痛や背部痛を訴えることもあります。口の奥を見るとその粘膜にぼちぼちと水疱(2〜5ミリ)や潰瘍があり赤く腫れています。いかにも痛そうで、赤ちゃんが痛みのために食欲が無くなるのは当たり前に思えます。そんなときは、お母さんにも、そののどを見てもらい、「ここから熱がでているんだよ」というと納得してくれます。水疱は潰瘍に変わり、2〜3日で治っていきます。高熱も2〜3日の辛抱です。この間、熱性けいれんをおこす子供もいます。エンテロウィルス感染症による髄膜炎や重傷例もあるのですが、ヘルパンギーナは、合併症も少なく3〜6日の経過で元気になります。

  急性胃腸炎

 エンテロウィルスにより、嘔吐や下痢を伴う場合もあります。しかし、症状は軽く、軟便から水様便が一日多くて4〜5回で、2、3日で軽快してしまいます。吐き気が強い場合は、むしろ髄膜炎に気をつけなくてはなりません。

  無菌性髄膜炎

 エンテロウィルスは、風邪を起こすウィルスの中でも、髄膜炎を起こしやすいウィルスとして知られています。年によって、大流行を起こすこともあります。
 昨年7月のマンスリーニュースには、その6月末の時点で4人の髄膜炎患者さんを病院へ紹介したことを前置きで書きました。毎年の繰り返しですが、ワクチンも無く、子供達とウィルスの素手の戦いが今年もすでにはじまっています。
 未来ある子供たちが重症にならないよう、ウィルス様よろしくお願いいたします。

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