ハンセン病裁判に思う

 昨年は6月9日でしたが、今年は遅い梅雨入りでした。うっとうしい季節です。イネ科花粉の飛散測定も6月13日で打ち切りになりました。スギからイネ科への花粉症も、何となく尻切れトンボで終わった年でした。
 子ども達の間では、胃腸炎や高熱を伴う風邪、水ぼうそう、おたふくかぜ、更に今年は麻疹(はしか)が猛威をふるっています。気圧や気温も不安定で、喘息発作も出やすい季節です。
 さて、今月のマンスリーニュースは、新聞で話題になっていたハンセン病裁判について考えてみたいと思います。重い話題ですが付き合ってください。

  ハンセン病とは?

 結核菌と同じ仲間の好酸菌である伝染力の大変弱い「らい(癩)菌」によって引き起こされる感染症です。この菌の存在は、1873年アルマウェル・ハンセンによって確認されました。これがハンセン病と言われるゆえんです。
 少なくとも2500年以上前から存在する病気で、現在も世界中に患者さんがいます。世界での推定患者数は1000万人以上と言われます。1991年の時点で患者数が一番多いのはインドで約400万人。日本では、患者数が激減していますが、この時点で年間50人ほどの報告があるそうです。

厚生省からのハンセン病の知識を転載します。
◇遺伝病ではありません。
◇伝染力の極めて弱い病原菌による 慢性の伝染病です。
◇乳幼児のときの感染以外はほとん ど発病の危険性はありません。
◇患者のすべてが菌を出しているわ けではなく、軽快した患者と接触 しても感染することはありません。
◇不治の病気ではなく、結核と同じ ように治癒する病気です。
◇治癒したあとに残る変化は単なる 後遺症にすぎません。
◇早期発見と適切な治療が患者にとっても公衆衛生上からも重要です。
                         (厚生省) 

  ハンセン病訴訟

 感染の危険性があるのは幼児期以前に繰り返し接触したような場合で、それも「らい菌」に対する免疫の働きが弱い場合に限ると言われます。これほど感染にくい病気なのに、昔からの習慣のまま、世界の趨勢が隔離が不要であるという時代になっても長期の隔離を強いられた患者さんの不当への叫びが裁判の発端になったのだと思います。政府のとった隔離政策が間違っていたことは明らかで、熊本地裁が厳しい判決を下したことは大変意義のあることだと感じます。
 国は国民の人間らしい生活を守る役目を担っているのですから、新しい知識を国民に広めると共に、理解や偏見の為に理不尽な扱いをされている国民を国自らが率先して守るべきと思います。
 小泉首相の控訴断念の報道は、患者さんとの対話の後に決まったように聞きました。あるいはすでに心の中で決まっていたのかもしれませんが、「人気取り」であれ「人間としての良心の発露」であれ、いずれにしても多くの患者さんに幸せな感情を与えてくれたことは確かだと思います。その幸せな感情が、新聞を読んだ全国民に伝わったことも確かな気がします。これほど偉大な「人気取り」なら何回あっても大歓迎です。予算は大きいかもしれませんが、これに税金が使われるなら国民も納得するでしょう。不要な橋や道路をいくつ作っても国民は幸せになれません。

  病人・病気を隔離する

 病気によってはその感染力や原因が不明なため、また普通の人と同じ生活が出来ないために健康人から引き離され一カ所に集められて治療を受ける事もあります。ハンセン病や結核が代表的な病気ですが、重症心身障害児や筋ジストロフィーなど手足が不自由な病気、知恵の遅れる病気の人などもそうです。
 日本全国にある国立の療養所は、そういう患者さんを受け入れる最後の砦でもあります。私も何カ所かの療養所に勤めましたが、普通生活に戻れない多くの患者さんにお会いしました。患者さんは諦めていますが、自分に当てはめてみると、どんなにか寂しいだろうと思います。病気は時に隔離せざるを得ないこともありますが、病人はどんな状況であろうと社会とのつながりの中で社会に受け入れられながら生きることが幸せなのだと思います。ハンセン病裁判はそんな患者さんの正直な気持ちを社会が受け入れる、ひとつの機会であって欲しいと思いました。

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