抗生物質を使わない!

スギ花粉の飛散も最盛期を過ぎました。変わってヒノキやケヤキ花粉が混じってきています。間もなくイネ科の花粉が飛び出すでしょう。毎年一緒のことを書いています。花粉症の患者さんにとっては本当にイヤな季節ですが、山や野は花咲き、緑湧き出る一番気持ちの良い時です。北陸は、桜も早めに散ってしまいましたが、今朝(14日)の飼い犬(十兵衛)との散歩は、のどかでした。田圃のあぜ道を歩いているとモンシロチョウが軽快に舞っています。5月の田植えに備えて既に水を張った区画もあります。その上を春の風が渡っていきます。名も知らぬ大きめの鳥が、十兵衛の興味を誘うように突然飛び立ちます。こちらは必死で手綱を引き締めました。
 さて今月のマンスリーは、「抗生物質を使わない」というテーマでお話します。

  EBMという考え方

 Evidence Based Medicine(科学的根拠に基づいた医療)という言葉が医療界で囁かれています。その元になった言葉は、19世紀半ばのパリまでさかのぼるそうです。アメリカでは10年ほど前に登場して以来急速に普及しました。日本でも最近新聞紙上などで眼にする機会が増えてきました。
 Sackett DLさんが、1996年にEBMをもう少し詳しい言葉で言っています。
「医療従事者が個人個人の患者の治療について決定する際、現状で存在している最良の医学的根拠を良心的に、明らかに理解した上で慎重に患者に対して用いる手法」と定義しています。
 同じ病気でも患者さんの症状はいろいろです。医療機関によって、その病気に対する理解度の遅い早いがあることは十分考えられます。また、科によって同じ病気に対する対応が異なる場合もあるでしょう。もしそれが命に関わる程のことであれば全く誰のための医療か分かりません。
 情報化の波が全世界に張り巡らされ、数秒の内に地球の裏側の出来事がもたらされる現在、医療が大きく変わって来ていることは明らかです。日本で普及していない肝臓や心臓移植を海外でやるというのも情報の早さ故でしょう。身近な話題としては、最新の研究成果に基づいた最も効果的な治療法を、医師をはじめとする医療従事者が参考にし、あるいは利用できる判断材料として提供する構想が日本でも進行中です。1998年には、厚生労働省が主体で、「喘息予防・管理ガイドライン」が作られました。2000年には、日本小児アレルギー学会が、「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン」を独自に提供し、小児の喘息治療の基本として利用されています。「高血圧」「糖尿病」なども同様に作られています。たとえその病気が専門というわけではなくても、どの患者にも出来るだけ最先端の医療が受けられる機会を作ることが求められています。

  風邪の治療

 話を本筋に戻しましょう。
冬は風邪の季節です。今年も 2〜 3月にかけて風邪が流行しました。インフルエンザは中流行というところでしょうか。高熱が 3日も 4日も続くと本当に心配です。医者も心配ですから、親御さんの心配は当然のことです。これまでは、熱が高いと細菌感染を考えて早めに抗生物質を処方してしまうのが多かったと思います(少なくとも私は)。しかし、EBMで考えた時それでいいのでしょうか。ここは開業医の間でも大学で研究されておられる先生の間でも意見が分かれるところです。一般的には、風邪熱の 8〜 9割はウィルス感染と言われます。ですから抗生物質が効かないのです。ウィルスが付くと細菌にも弱くなるから二次感染を防ぐために使うんだという意見も聞きました。うーん・・・どちらが本当なんだ。でも日本で抗生物質の効かない細菌(耐性菌)が増えているのは抗生物質の使いすぎなんじゃないの?北欧の抗生物質をほとんど使わない国では、耐性菌が少ないと言うけど寒いからなの???(冗談言ってる場合か)

  抗生物質を使わない

 一つの診療所が抗生物質を使わないと、それだけでも耐性菌が減るという情報がありました。大変貴重な情報です。更に血液中の炎症反応が 4分程で測定できる器械も入りました。その患者さんの状態にもよりますが出来るだけ風邪の最初から抗生物質を処方することを控えています。もう半年程になりますが細菌性髄膜炎の患者さんは出ていません。発熱が長い時は炎症反応を調べます。陰性の時はそのまま様子をみます。一人だけ入院治療を要する尿路感染の幼児に出会いました。4日目に調べた炎症反応は強い陽性を示しました。即入院。先天的な尿路の異常があったので仕方ないと思っています。
 日本で抗生物質を沢山使ったことが、溶連菌感染によるリウマチ熱や急性腎炎が減少した要因であるという意見もあります。しかし貧しく栄養状態も悪かった時代と現在を同等な立場で論じることは出来ないと思います。また、尿路異常の幼児に発熱の最初から抗生物質を使っていたら、異常の発見は更に遅くなったでしょう。
 人間の感染症は、現在も大きな問題の一つです。エイズ、結核、狂牛病、病原性大腸菌、耐性肺炎球菌やインフルエンザ菌。麻疹だって時に大流行。加えて新型のインフルエンザ・・・きりがないです。
 私が患者になった時にどんな治療を受けたいか。やはりEBMです。耐性菌を減らす為にも。でもいつも自分の病気は手遅れです。医者の不養生・・・ハイ。当たってます。

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