喘息治療最前線(2)

 昨年の11月号は、「おたふくかぜ」の話題でした。今年は下火ですが、水痘が少し流行っています。喘息発作もやや多めです。また、例年のことですが、お腹に付く風邪も流行っています。
 さて今月のマンスリー・ニュースは何が良いかなと考えていましたが、最近「小児喘息治療ガイドライン」が少し変更されたのを機会に、喘息治療最前線パート・ツーをお届けすることにしました。平成7年10月号(48号)でパート・ワンをお届けしたので、7年後の再来です。この7年間で理にかなった正しい治療が実践されて来ましたが、新たな問題も出てきています。

  喘息とは?

 喘息とはどんな病気でしょうか。まずおさらいしてみましょう。
 医学的な定義では、気道の慢性的な炎症とそれに伴う気道の過敏性で定義付けられる疾患です。何か難しいですが、症状としては気道の狭窄により呼吸困難を繰り返し起こす病気と言えます。また、夜間や早朝に症状が出やすいのが特徴です。子どもが喘息になると、夜間の咳や喘鳴(ゼーゼー・ヒューヒュー)のために親も寝不足の日々を過ごすことになります。長期化すれば、当然親子関係もギクシャクしてきます。これは、仕方のないことです。重症例では、そのギクシャクが、更に発作の引き金になることもあり得ます。

  治療の変遷

 喘息治療の考え方もここ10年余りで随分変わってきました。そのもとになったのは、喘息の病態が次第に解明されてきたことです。喘息が気道のアレルギー性炎症であるということが分かって来るにつれて、発作をいかに抑えるかが重要になってきました。発作を出させておけばおくほど、気管の敏感さが増強することが分かって来たからです。このため、気管の敏感さを抑え、発作を出来るだけゼロにする治療が推奨され現在に至っています。
 子どもの喘息でも同様です。私が喘息とつき合いだした30年近く前の治療は、発作が出たら治療するという非積極的な治療が一般的でした。そのうちに喘息は重症化していきました。重症な喘息は家族を巻き込んで更に重症になっていきます。
 
「発作は、予防が大事だ。」「発作ゼロが目標だ。」という喘息の本質に迫る治療法が取り入れられてからは、長期入院を要する重症例が目に見えて減っていきました。その治療の中心になった薬が、テオフィリンとインタールです。特にインタールの液剤に気管支を拡げる薬を入れて連日吸入し、発作を未然に予防する治療は、小児科医にとって有効な武器になりました。私も大学(金大)で、アレルギー外来を担当している頃、インタールの液剤が市販される前に、粉のインタールを水に溶かし、それに気管支を拡げる薬を入れて患者さんに吸入してもらっていました。大変効果がありました。液剤が市販され、その効果が多くの小児科医の認めるところとなり、重症例が外来で管理できるようになってきました。いや発作を的確に予防できれば、既に重症ではないのです。

  子どものステロイド吸入

 子どもの喘息治療で、ステロイド吸入が始まってから既に20年以上が経過しています。私が大学を卒業して、数年後にステロイド(ス)吸入の治験(新薬の効果や副作用を調べるための試し使用)が、あったことを思い出します。5〜6才以上になれば使用可能でしたから、インタール吸入だけでは発作がコントロール出来ない患者さんには使っていました。しかし、子どもが成長期にあることを考慮して、使用に慎重になってしまう小児科医が多い状況でした。最近は随分違ってきました。2倍の効果があり、かつ副作用の少ない(ス)吸入薬が開発され大人はもちろん、子ども達にも積極的に使用されつつあります。気道の炎症を的確に抑えてくれる新しい(ス)剤は、喘息治療の切り札ですが、粉剤なので吸い込める年齢が限られてしまいます。上手に吸えるのは4〜5才以上でしょうか。実は、液体の(ス)吸入剤は既に出来上がって外国では使われています。しかし、どうしたわけか日本ではまだ使用が許可されていません。

  乳児喘息が増えている

 乳児(1才前)の喘息が増えています。理由はハッキリしませんが、食生活や生活環境の変化が問題なのでしょうか。重症例には、新しい(ス)剤を使いたいのですが、粉剤の吸入出来ない乳児には、液剤の発売が待たれます。確かに乳児期から(ス)剤を使うことには慎重であるべきですが、毎年増加傾向にある喘息という病気を克服するためには環境整備と共に、子ども達を息苦しさから解放し、成人まで持ち越さない為の発作ゼロ治療も大変大事です。
 お代官さま、早くご許可を!

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