子どもとメディア

 3月も半ばを過ぎてしまいました。毎年のことですが、インフルエンザの大波がようやく去ろうとしています。今年は、A型B型がほとんど同時に流行したせいか、大波がゆったりと過ぎて行った感じです。過ぎ去るまで2ヶ月かかりました。年によっては、高い波が1週間で過ぎ去ることもあるし、だらだらと小波の繰り返しということもあります。インフルエンザ脳症の発生が心配でしたが、県内の報告は無いようです。ただ最近になってインフルエンザにかかった1才の子が急死したという報告がありましたが、原因はインフルエンザではなく、小児突然死症候群が疑われるということでした。未だ原因究明中です。
 さて、今月のマンスリー・ニュースは「子どもとメディア」という題目でお話したいと思います。

  メディアって何?

 メディアって何でしょうか。「聞いたことあるな。」という方がほとんどだと思います。直訳すると「媒体」とか「手段」と言うことですが、普通はマスコミュニケーションの媒体、つまり新聞やテレビ、ラジオの事です。
 人と人との通信手段も原始時代から随分変わってきました。最初は直接会話から始まりました。太鼓を打ち鳴らしたり、叫んだり、丘の上で火をたく「のろし」を発明した人は、「これからは声がかれたり、手に豆が出来たりしないから助かるなー」とどんなに感謝されたことでしょう。・・・それから数千年、文字による伝達(書物)が主流だった時代が過ぎて、音や映像を伴ったメディアへと急激に変化してきました。現代では、勿論ラジオからテレビへ、さらにインターネットや携帯電話へと突き進んできた感じです。本当に目まぐるしいほどの変わり様です。 それに伴っていろいろな社会問題が出てきていることも事実です。インターネットで知り合った見知らぬ気のあった人たちが、集団で自殺するなんて考えもしませんでした。インターネットのない時代は、一人寂しく死んだものです。でもそれより良いかなーなんて。(不謹慎ですぞ)
 冷静に考えてみれば、現代人は幸せだなーと思います。手紙でもビデオでもメールでも、自分が使いたいと思う通信手段は何でも選べるのです。勿論鉛筆だってボールペンだって筆だって選べるよ。(?)
 でもさらに冷静に考えてみると、あまりに急激なメディアの洪水に溺れてしまっている感じもします。特に日本人は、取捨選択の余地もなく大量のお水を飲み込んでしまいました。その中に泥水や毒水が混じっているとも知らないで・・・御愁傷様、では済まされません。特に子ども達がその犠牲になっているとすればなおさらです。

  子どもとメディア講演会

 2月26日、午前の飛行機で福岡へ向かいました。小松空港の除雪で、30分ほど離陸が遅れたトラブルはありましたが1時間半程のフライトを終え無事到着しました。福岡も雪模様です。粉雪が舞っていましたが積もるほどではありません。インフルエンザの診療に疲れがたまっていた心身には、日本国内と言っても異国の地です。グッと開放感が沸いてきました。 
 翌日は朝から講演会です。昨年に引き続いて開催される「第二回子どもとメディア全国フォーラム in 福岡」に初めて参加するためにやってきました。このフォーラムでどうしても聞きたかったのは、ノンフィクション作家で最近は「大人も絵本を読みましょう」と提案されている柳田邦男氏の講演です。慢性寝不足の私は、講演会でいつの間にか船をこいでいることが多いので気を入れて聞きました。IT社会の危険性から心の発達、さらに中心話題である絵本の素晴らしさについて、最後まで一つ一つの言葉を選びながら話される話題が、一方に片寄ることなく私には納得のいくものでした。

  子どもにとってメディアとは?

「テレビに子守をしてもらっているお母さんはいませんか?」
 ドキッとされた方はちょっと反省してください。
 日本小児科医会は、

2歳までのお子さんにテレビやビデオを長時間見せておくことは、
外遊びの機会を奪い、
人とのかかわり体験の不足を招き、
親子が顔を合わせて一緒に遊ぶ時間をも奪うために、
言葉や心身の発達を妨げる可能性があります。
お母さん、お父さん、テレビ・ビデオを消して、
お子さんと一緒に絵本を読むとか
お遊びをする時間を増やして見ませんか。

と提言しています。
 言葉が遅い、表情がない、呼んでも振り向かない、視線が合わない、いっときもじっとしていない、テレビを消すといやがる・・・こんな赤ちゃんがいたら危険信号です。人と人とのコミュニケーションの力は、テレビやビデオなどの一方向通信では発達しにくいと考えられます。
 生まれて直ぐの赤ちゃん。可愛いですねー。声を出して「可愛い」と言ってあげてください。生まれて直ぐの赤ちゃんも1ヶ月すれば、お母さんの眼をじっと見つめます。見つめ返してあげてください。3ヶ月もすればあやすと声を出して笑います。十分あやしてあげてください。アーとかウーとか意味のない言葉(喃語)も発します。その時も「あ、そう」とか「へー」とか答えてあげてください。この時期の交流がコミュニケーション発達の原点です。言葉の交流は心の交流でもあります。悪い事したら叱りましょう。上手に出来たら誉めてあげてください。毎日の言葉の積み重ねが、生きることの楽しさや少しばかりの大変さを育てます。生きることの実感を育てるのです。
 ここまで発達したメディアをどう使うか。それは個人にまかされています。しかし、子どもが何を選ぶかを決めるのは、その子どもがどう育てられたかということに大きく影響されることを、しっかりと頭に入れておく必要があるでしょう。

  そして最後に内緒で

 「先生は福岡まで行って勉強ばかりしていたのかしら」と同情してくれた方がおられたら心配しないでください。忙しいさなか、時間を見つけて金印の志賀島と黒田如水の秋月まで行って来ました。北から南へと忙しいことです。でも、海と川で心が洗われました。皆さん、ありがとう。

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