MRワクチン開始 

         すべてのワクチンを無料で!!

 暖かかったり寒かったり、最近の天気は当てになりませんが、少しづつ春が近づいていることは確かです。インフルエンザも数少なくなりました。お腹の風邪は流行っていますが、何回か吐いてしまうと子どもは元気を回復します。白っぽい下利便で特徴的なロタウィルス腸炎も時々見られますが、入院するほどではありません。でもロタはまれに脳症を起こすことがあるので要注意です。
 今日(21日)は、当番医でした。48名中インフルエンザは5名、A型は2名でB型の方が多かったです。2ヶ月の赤ちゃんはRSウィルス陽性の細気管支炎でした。ゼーゼーは軽かったのですが、水分摂取が少ないので松任中央病院に紹介しました。
 さて、今月のマンスリー・ニュースは「MRワクチン開始」という題目でお話したいと思います。

  MRワクチンとは?

 MRワクチンとは、麻しんと風しんの混合生ワクチンのことです。これまでは、1才を過ぎると、麻しんワクチン、そして風しんワクチンと4週間の間を空けて摂取していましたが、4月からは混合したワクチンを1回で摂取出来るのです。注射は痛いですから、回数が少ないに越したことはありません。それは大人も子どもも同じ事です。また、病院に来る回数も減るわけですから、お母さんにとっても負担が少ないですね。でも効果はどうなんでしょうか。これも問題ないことが分かりました。それぞれのワクチンの抗体が、別々に接種した時と同じように出来るそうです。さらに副反応も特に多くなることも無いそうです。
 それぞれの病気のおさらいをしておきましょう。
 麻しんは、有名ですから頭に入っていると思いますが、風邪症状と高熱が続き、発疹もでて大変重症な病気です。時には肺炎や脳炎を起こして死に至ることもあるので、ワクチンを忘れてはいけない病気ですね。
 さて、風しんは少し記憶が曖昧かもしれませんが、妊婦、特に妊娠初期にかかると、赤ちゃんに白内障、心臓病、難聴、知恵遅れなどの起こる先天性風しん症候群を発生させる怖い病気です。
 MRワクチンの接種は1才から2才に1回目を、2回目を小学校入学前の1年間の間に接種する予定になっています。このように麻しんも風しんも2回接種しておくと、充分抗体が出来ますから大学生になってから抗体が下がってきて麻しんにかかるということも少なくなるでしょう。風しんは小児期の2回接種で、妊娠する年代になった時、全員が充分抗体があるかどうかについては、ほとんどの人が大丈夫と言われています。
 現在アメリカでは、麻しん、風しん、おたふくかぜの3種類の病気に対する抗体の入ったMMRワクチンを使用しています。(日本でも一時期使われていました)
 おたふくかぜの難聴は、一生治りません。両耳をやられたら聾唖者です。日本も早く3種でいきたいですね。

  すべてのワクチンを無料で

 小児期に必要な予防接種をすべて無料で接種するという意見は、我々小児科医の悲願です。「何でもただというのはありがたみが分からないから良くない」というまことしやかな意見もありますが、それは予防接種については当てはまらないと思います。
 人類にとって生命とはかけがえのないものです。生命があって初めて人類の生存が保障されるのです。先人達は、この世に生まれた人間が、その与えられた生命を最後まで途切れることなく生き延びる為に、多くの病気と闘ってきました。彼らは不治の病の原因が、細菌やウィルスの感染であることを突き止め、予防接種という素晴らしい手段を作り発展させてきました。特に、生まれたばかりの最も感染に弱い乳幼児の感染症を含む多くの病気を克服し、乳幼児死亡率が、最低であることは世界に誇れる事実です。
 しかし、その日本で欧米先進諸国だけでなく近隣のアジア諸国よりも遅れた予防接種体制がとられているのは何故なのでしょうか。さらに4月からは医療費削減が当たり前のように多くの議論もなく決定されました。
 世は「少子化が大変だ」、「子育て支援はどうなっているんだ」という議論が盛んに行われ、「子ども達が最近おかしい」「子ども達の起こす凶悪犯罪は何故なんだ」と、子ども達の示す異常行動に驚異を示しています。
 子ども達は人間社会においては弱者です。弱者が大人たちの驚く行為をするのは、やはり何かのサインなのでしょう。大人たちの言いなりになってきた子ども達が、我慢できなくて叫びだしたのです。でもどう叫んで良いか分からず未熟な反応で叫んでいるのでしょう。大人の世界でも憎い人を殺すという犯罪は沢山あります。子ども達もそれを見ているのです。憎い友人をナイフで刺してもおかしいとは言いにくいです。大人が身勝手に、子どもはそういう事はしないものだという先入観が大人にはあるのではないでしょうか。でも子どもがそこまで人を憎む状況があるというのが現代社会の問題なのでしょう。弱者を守る成熟した社会環境が、日本で次第に不足してきているように感じます。
 乳幼児期に死ぬ子どもの数は世界で最も少ないのに、その子ども達が、その後本当に幸せに育っているかを調べる必要があるかも知れません。でもその子が幸せか、不幸せかを調べるなんて難しいですね。それこそ個人情報ですから、親に聴いても良いことしか帰ってこないでしょうし、1才の子どもに「幸せですか」とも聞けないし、虐待が分かる頃には手遅れですね。
 だからやっぱり「すべてのワクチンを無料で」接種する必要があるんです。突然とお思いでしょうが、そうなんです。すべてのワクチンを無料で接種することは、弱い者を守るという国からのメッセージなんです。お金がある家族の子ども達だけが接種出来るのでは困るんです。お金で命が買えるようでは困るんです。「お金が無くても、幸せになって下さい」という国のメッセージが必要なんです。インフルエンザにかかって脳症を起こし、親が「ワクチンを打っておけば良かった」なんて後悔をさせるべきではないんです。人間の手で防げる悲劇は出来るだけゼロにすることが国としての使命なんです。どうしても防げない悲劇が人間世界には沢山あるんですから、防げるものは防いであげてください。悲劇が減って少しでも幸せと感じる機会が多くなれば、人間社会はもっと住みやすく、子どもの笑顔が絶えなくなるでしょう。

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