子どもの未来と世界について考える懇談会

 カレンダーも2月に変わり、やっと冬らしい天気が続いています。しかし、雪は年毎に減っている感じですね。でも、近くのスキー場は、積雪一メートル以上ですから安心しています。 

 長野冬季オリンピックも感動的な開会式とともに始まりました。未来を担う子供たちがテレビ画面いっぱいに躍動する姿は、ひと時でも世界が平和であることの必要性を全人類に訴えかけたのではないでしょうか。

 さて、今月のマンスリーニュースは、首相官邸からお送りします。といってもどういうことか分かりませんよね。私がインターネットでたまたま首相官邸のホームページに入り込んだところ、昨年十二月十九日に首相官邸の大食堂で、橋本首相出席のもと「子どもの未来と世界について考える懇談会」(第一回)が開かれ、その議事録が公開されているのを見つけました。選抜された委員は二十名で、そのうちの十八名が出席されていました。委員には、建築家やサッカー選手、作家や作曲家、パラリンピックの水泳選手、また日本人だけではなく外国人で日本通の方たちと多岐にわたっていました。一つ私の不満を言わせてもらえば小児科医がいなかったことと子どもがいなかったことです。この気持ち、分かっていただけますか。子供たちにしたら、「当の本人を差し置いて何を言うか」というところでしょうか。            議事録を読んでいると、いかに人によって考え方が違うか、感心します。中には、私としては眉をひそめたくなるような意見もあります。しかし、その意見も目指すところは同じなのです。それが、人間世界が一筋縄ではいかないことを示しているのでしょう。私は常日頃から、平和で楽しく、子供たちが夢を育むことが出来る世界を作るには、やはり家庭が大事だと思っているのですが、児童文学にくわしく福音館書店を築かれた松居直氏の意見に共感しましたのでご紹介します。

 「子どもの未来という、このテーマがございましたので、私は子どもの未来という言葉ですぐに思い出しましたのは、実はあそこにいらっしゃる河合隼雄先生(臨床心理学者)のお兄様とお話をしていたときのことなんです。              それは、数年前に対談をいたしまして、その後の雑談のときに、河合雅雄先生は世界的なサル学の権威でいらっしゃいます。それで、河合先生が子どものことの話になりましたときに、今の子どもは長生きしませんよと簡単におっしゃったんです。平均年齢五十代でしょうねと言うんです。今、日本で長生きしているのは明治、大正、昭和ひとけたの人です。今の子どもの様子を見ていれば決して長生きは出来ないだろう。平均寿命は短くなりますよということをおっしゃったんです。先生はサルの権威者でいらっしゃいますが、人間もサルですからねとそのときおっしゃいました。   これは大問題だと私は思います。なぜですかと聞きましたら食生活とストレスと、それをお挙げになりました。これは一度河合雅雄先生に正確なところをお聞きいただきたいんですが、これはとても大きな問題だと思います。日本の言ってみれば国家の存亡にかかわることかもしれません。ですから、子どもの問題を考えるときに、子どもの健康の問題、これは抜かしてはいけないだろうと思うんです。         そして、その食生活とストレスということから、私は問題は家庭だねというふうに思いました。大体、教育の問題は家庭だと私は思っております。学校や保育所ではない。子どもは家庭から出て行って家庭へ帰るわけですから家庭が根拠である、基盤です。その家庭が今どうなっているかということが、もし日本の教育を考える場合には非常に大切だと思うんです。保育者の方にいろいろお話を聞いてみましても、お母さんやお父さんが全部専門家だということで保育者に任せてしまう。今はお任せ保育ですよね。それは確かに手が省けるんですが、そうしますと子どもは育たないのです。そのことを保育者は非常に心配される。私は稚内から石垣島までほとんど日本じゅうを知っておりますけれども、たくさんの保育者やお母さんにお会いしておりますが、やはり心ある方は家庭の問題を考えていらっしゃる。もう一度家庭へ戻さなければならない。親も親でなければだめだということをしきりにおっしゃる訳です。よく見てみますと、家庭の内部崩壊はかなり進んでいると思いますし、私は幼児虐待、児童虐待は激増すると思っております。大体アメリカで起きることは十年ぐらいたちますと日本で起きますし、今までずっと見てきてそういうふうに思いますから、そういうことを考えましても、一体家庭とは何なのか、親とは何なのかということをもう一度私たちも考えていかなきゃいけないんじゃないだろうか。教育のことを考えますときに、むしろ子どもの問題よりも親の問題だと私は思っています。親が本当に安定して幸せでなければ子どもが幸せになるということはないだろうと思うんです。今の日本の親は決して幸せではない。では、社会福祉をやればいいのか。これは社会福祉の問題ではないと思うんです。そこへすり替えては決していけないと思います。もっと精神的な問題を私たちは考えていいのではないか。                 私の経験からしましても、子どもを育てることで私は父親になりました。初めから父親だったのではないんです。私は父親になれたんです。これは子どもがしてくれたんです。それは大変私にとっては大きな経験でありましたし、父親になることによって少し大人になれたかなという気もいたします。                 そんなことを考えてみますと、今の親は親として育っていないんじゃないか。親として育っていない大人が非常に多いのではないか。特に父親がそうだと思います。これは企業の問題でもあります。社会的な組織の問題でもあります。言ってみれば、企業からお父さんを解放させていただけないだろうか。私も企業の人間ですが、役員会で時々そんなことを言いますけれども、そういうことが私にとっては一番大きな問題でございます。           もう一つは、総理が今いらっしゃらなくなりましたけれども、子どもの問題をやるときにはどうしてもお金が必要だと思います。それもかなり覚悟して政府がお金の問題をきちんとしていただかなければいけないのではないか。あるとき村上正邦先生にお目に掛かったときに国際子ども基金の話がちょっと出ました。一千億から二千億とおっしゃいました。私は大変それはいいアイデアだと思います。今このメンバーに二千億のお金を任せていただければ、かなり有効に使えるのではないかというふうに私は思っておりますので、これは官房副長官に是非是非お願いしたいと思います。」


 私も親御さんによく言います。子供を育てながら親になるんだよ。試行錯誤しながら親になるんだよ。昔育てたことがあれば、もっとうまく育てられるのにねー。小児科医だからうまく育てられる訳じゃないんだよ。皆さんと一緒なんだよ。自分の子供は怖くて(不治の病だったらと思うと)診察したことなんかないんだよー。

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